§016 収納魔法
「さすがにちょっと派手すぎね?」
ハルトの言葉に私はショックを隠し切れませんでした。
さっきまでの自信はどこへやら、私は自分の服装が不安で不安でたまらなくなりました。
確かに以前のものと比べれば幾分か派手ではありますが……。
「似合ってないでしょうか?」
今の私にはもう余裕はなく、詰め寄るようにハルトに近付くと、すがるようにハルトの外套を掴みます。
しかし、なぜかハルトは私と視線を合わせようとせず……というか顔よりも下の方を見てる……?
そこで私はハッとしました。
「ちょっと! どこ見てるんですか! 変態!」
派手ってそういうことだったのですね……。
私はハルトの言葉の真意に気付いてすぐさまハルトから離れると、胸元を押さえて恨めしい目付きでハルトのことを睨みつけます。
完全に油断していました。
こんなに胸元がぱっくりと開いたブラウスを着るのは初めてだったので、ついいつもの感じでハルトに詰め寄ってしまいました。
ただこの反応にはさすがのハルトも動揺したようで、ハルトも私と同様に脱兎の如く後ろに飛び退くと、必死で首と手を振っています。
「い、いや違うんだ。さすがに今までと変わりすぎだろと思っただけで別に胸を見ていたわけじゃ!」
「あ、」
「あ、」
「…………最低です」
(――放送禁止――)
「(コホン)。今日もいい天気ですね」
「ああ、大変お日柄もよく、清々しい天気だな」
ハルトが何やら上擦った声でしゃべります。
なぜかハルトの顔が引っ掻き傷だらけになっていますが、私はそのような些事は気にしません。
大方、通りすがりの猫に引っ掻かれたのでしょう。いい気味です。
「ラフィーネ、結局、武器の方はどうなったんだ? 見たところ剣の類は無いようだけど」
急に真面目な口調で話し出すハルト。
ハルトはどうやらすべてを無かったことにしようとしているようです。
まあ、ハルトも少しは私の魅力に気付いてくれたようですし、私としてもこれ以上変な空気になるのは避けたいところですので、今日はこれくらいで許してあげます。
「今回、剣は買っていませんよ。お金もありませんでしたし、それにほら――
そう言って私が軽く詠唱すると、突如、何もない空間から折れた剣が姿を現しました。
「ハルトに折られた剣ならここにありますもの」
「あ、ああ……。っていうかその魔法すごいな。お前そんなこともできるか」
ハルトは自分が剣を折ってしまったという負い目からか一瞬複雑な表情を見せましたが、そんな表情はすぐに引っ込みました。
どうやら私が虚空から剣を取り出した驚きがその感情を上回ったようです。
「これは空間魔法――
そういえば、ハルトに
空間魔法というのは実はかなり希少な魔法で、世界でも使い手はほとんどいません。
そのため、普段の私なら真っ先にハルトに自慢をしていたところですが……。
「別にすごくありませんよ。内容量も全然小さいですし」
気付いた時には否定的な言葉を口にしていました。
そのため、私が魔女の頃は無限大に物を収納できました。
しかし、今の私はというと装備品と多少の食料を備蓄するのが限界です。
これではハルトの荷物を入れてあげることすらできません。
ここまで考えて、私はあれほど好きだった魔法に対して負の感情を抱いていることに気付きました。
私は魔法が大好きでした。
これは魔女になる前からずっとそうで……子供の頃なんか絵本を読むよりも魔導書を読む方が好きなちょっと変わった女の子でした。
元々そこまで多弁な方ではないのですが、殊、魔法のことになると話は別。
その魔法の構成・効果、習得条件やマイナーな雑学に至るまで話したくて話したくてたまらなくなる、いわゆる魔法オタクだったのです。
でも、今はどうでしょう。
私はもう自分の魔法が好きではなくなってしまったのです。
なぜこんな180度考え方が転換してしまったかというと……自分の魔法があまりにも不甲斐なかったからです。
ハルトに出会う前、私は世界最強の魔女でした。
それが今はどうでしょう。
レベル1の駆け出し魔導士です。
これまでの魔法が世界最高クラスだっただけに、今の魔法はどうにも見劣りしてしまって……。
そういえば、ハルトは私が『魔女』の頃の魔法を見たことがないんですよね。
ああ、一度でいいからハルトに私の実力を見せてあげたかったな。
「ラフィーネ、どうした?」
そんなことを考えていると、私の異変に気付いたハルトが声をかけてきました。
本当に変なところで勘がいいんですから、この人は。
私は負の感情を悟らせないように静かに首を振ります。
「いいえ。何でもありません。久々に魔法を使ったものですから少し眩暈がしてしまって。ちょっとハルトへの意地悪で折れた剣を出したのですが、どうやら罰が当たったみたいです」
そう言って私は申し訳なさげに肩を竦めると、すぐさま
「いつもみたいに俺をからかおうとしたんだろうけど、あんまり無理するなよ。お前はもう『魔女』じゃないんだから」
「……そう、ですよね。本当に大丈夫です。それよりも剣の話でしたよね!」
私はどうにか気丈に振る舞って、強引に魔法の話題から剣の話題へと話を戻します。
「剣についてももちろん親父さんに相談しましたよ。剣は出来ればこのままこの剣を使いたいと思っていたのでその方向で話してみました。そうしたところ、どうやら親父さんの知り合いに腕の立つ鍛冶師さんがいるようで、その人ならこの剣も元通りにできるかもしれないということでした」
「おお! それは吉報だな!」
「はい! 少しばかり思い入れのある剣だったので、直せるという事実がとても嬉しくて」
そこまで言うと、私はぴょんと跳ねるようにハルトの前に出て、屈託のない笑みを浮かべて言いました。
「――というわけでハルト――『銀貨50枚』ほど貸してくれませんか?」
「は?」
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