Lost.1.5 喪失世界の日常1

1.5-1 ネモ、初めての後輩

 これは、喪失世界ロストワルドのある日のこと。案内所で客人を待つネモの元に、ソフィーが見知らぬ人物を連れてきた。


「ネモ。新しい案内人が増えたから、紹介するよ。こっちにおいで」

「…後輩?」


 ソフィーの言う通りに彼女の元へとことこと向かうネモ。


「まぁ、ネモからするとそうなるね。ほらロナ、先輩にご挨拶だよ」


 ネモの呟きに答えながら、ソフィーは見知らぬ人物…ロナに声を掛ける。そしてソフィーの後ろからひょこりと顔を出したのは、ソフィーにとてもよく似た少女だった。


「え、ソフィーが、二人…?」


 唖然とするネモに、そうなるよなぁと苦笑いするソフィーとロナ。


「ええと、ネモさんでよろしいかしら。わたくしはロナ。ソフィーさんとのことは…わたくしも驚いていますの」

「ん、わたしはネモ。よろしく、ロナ。…本当に無関係なの?」


 ソフィーとの関係を疑うネモに、ロナも困惑した様子で頬に手を当てた。


「よろしくお願いしますわ。全くの無関係のはず…なんですのよ…?」


 ネモが疑うのも無理はない。ソフィーが金髪に金眼なのに対し、ロナは金髪に明るい飴色の瞳。容姿も異常に似通っているため、正直瞳の色か動作で見分けるしかないのだ。


「ぼくもびっくりしたんだよ?こんな似てることあるのかなって」

「その割に落ち着いてましたわよね、ソフィーさん」


 言動はこのように全く違うため、見分けられないのかといえばそうでもない。ただ、動いていない状態だとほぼ見分けが付かないだけである。

 さらに付け加えると、ネモの髪色も薄いとはいえ金色。所長に至ってはソフィーたちと同様の濃い金色をしている。よってこのような疑問が出るのは当然とも言える。


「ねぇ、ソフィー」

「なんだい、ネモ?」

喪失世界ロストワルドの案内人って、金髪じゃないとなれない…?」


 今の案内人はソフィー、ネモ、ロナ、そして所長。その顔ぶれを思い出して、すっとソフィーは真顔になった。なお、これは笑いを堪えているだけだったりする。


「…っ、そんなことはないんだ、よ?うくっ…くふっ、ふぅ…」


 堪えきれなかった笑いを何とか抑えながら、ネモに答えるソフィー。少し笑いの衝動が落ち着いたところで、さらにソフィーの笑いを誘発するように案内所の奥にある扉が開く。


「あれ、みんな揃ってどうしたの?あ、新しい子か…うわすごい金色、眩し」


 やってきたのは案内所所長のメル。先述した通り、彼も見事な金髪である。しかも瞳も金色。最早金とそれに類似したもの以外の色合いなど、ネモの瞳しかない。


「所長、人のこと言えない。…ソフィー?」

「…っ、もう無理!なんでこんなに金色率高いのさっ!!あははははは!!!」


 我慢の限界が来たらしいソフィーが、お腹を抱えて笑う。しばらくして落ち着いたのか、目元に滲む涙を拭うと狼狽えているロナに話しかけた。


「あー…お腹痛い…。ごめんね、ロナ。もう我慢できなかった」

「この状態、相当面白いですから仕方ありませんわ」

「…それにしても、随分ソフィーに似てるね?血縁者?」


 それにんー、と微妙な答えを返すソフィー。


「血縁…ではないと思うんですけどねぇ」


 そんなこんなでこの日は客人が来なかったこともあり、ぐだぐだと過ぎていった。喪失世界ロストワルドにも、こんな日があったりするのである。現状の案内所を見て、ネモがぽそりと言葉を漏らす。


「…今客人がここに来たら、何だここって思われそう」

「………案内所に全員集合していない時であることを、祈りましょうか」

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