1-13 侍女の帰還

 アミーテが目を開けると、そこにあったのは見知った天井だった。


「あ…わたし……」


 帰ってきたんだ。アミーテがそう枯れた声で呟くと、これまた見知った声がした。


「目を覚ましたのっ、アミーテ!?…っ、誰か、だれかジュリアお嬢様にお伝えください!アミーテ殿が目覚めました!」

「いあー、な…?」


 何故医師のイアーナがここに、と思うアミーテ。それに気づいたイアーナが、どこか怒った顔で状況を伝えた。


「どうして?みたいな顔をされてますが!アミーテ殿は一週間以上行方知れずだった上、いきなり屋敷の門前で倒れてらしたのですよ!?…どれだけ心配したと思ってるの、アミーテ!」


 思わず、といったように医師としてではなく友人としてアミーテに接するイアーナ。普段見ることのない彼女の姿に、何が起きたのか分からずアミーテは戸惑った。


「え、私が一週間以上行方不明?」

「そうよ、ジュリアお嬢様のテキストを取りに行ってそれきりって!聞いた時驚いたわよ!」


 自分が行方不明になった時の状況を聞いて、どういう事か理解したアミーテ。


(私、喪失世界にいる間こっちの世界から消えてたのね…)


 それもそうか、と一人頷いて納得した様子のアミーテに、堪らずイアーナが吼える。


「なんっっっで訳分からない状態に置かれた本人が一番落ち着いてるのよ!!」

「ご、ごめんねイアーナ?でも多分ジュリアお嬢様がそろそろ…」


 目覚めた時、イアーナがジュリアにそのことを伝えるように言っていたことをアミーテが思い出したその時。タイミング良く扉をノックする音がした。イアーナが扉を開くと、やつれきったジュリアが目を潤ませて。


「アミーテ姉様…!!!」


 彼女は泣きじゃくりながら、全力でアミーテに飛び付いた。


「じゅ、ジュリアお嬢様!?」

「…今だけはジュリアって呼んで、姉様」


 ぐすぐすと涙を零し続けながらアミーテに抱き付くジュリア。それを見て、イアーナが静かに退室していく。口パクで後で詳しく聞かせてもらいますからね、と言いながら。


「え、ええと…ジュリア?」

「姉様、アミーテ姉様…!とっても心配したのよ、ご飯も喉を通らないくらい…」

「…心配掛けて、ごめんね」


 泣き続けるジュリアの頭を昔のように撫でながら、アミーテはふっとこうなった理由を思い出す。頭を撫でているのとは反対の手で何やら硬い感触のする侍女服のポケットに手を入れると、それは確かにそこにあった。


「ねぇ、ジュリア。これを見て欲しいの」

「……なぁに?………ぇ?」


 ポケットにあったものーサクラ色の耳飾りを見せると、ジュリアは涙に濡れた瞳を大きく見開いて。どうして、とか細い声を漏らした。涙を止めて混乱する彼女の手に、アミーテは耳飾りを乗せる。


「信じてもらえないかも知れないけど、これはあの日壊れた耳飾りなの」

「…?」


 よく分からない、といった様子のジュリア。そしていきなり飛び出した為に持ってきていた箱を開けて、入っている筈のサクラ色の欠片を見ようとした瞬間。


「え………」


 欠片はきらきらと空気に溶け、消えていった。再び泣きかけるジュリアに、アミーテは語りかける。


「あのね。私、さっきまで喪失世界という所にいたの。そこで失せ物になった耳飾りを探して、案内人の子と山を登ってきたのよ」


 さらに混乱を深めるジュリアに、ふふっと笑ってアミーテは話し始める。不思議な世界で出会った青い目の少女と、彼女とした失せモノ探しのお話を。

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