1-12 「ありがとう」と「さよなら」
温かな太陽に照らされながら、ネモが足元を見て呟く。
「…ん。思ってた通り、地面が花弁で見えない」
「ですねぇ…綺麗ですけど」
雪は降っていないものの、降り積もるモノが雪から花弁に変わっただけであり。二人の足元は、白い花弁で埋め尽くされていた。
「これ、私の世界ではサクラの絨毯って言われたりするんですよ。春の風物詩です」
「春…今みたいな天気のこと?」
「これくらいの天気が多くなる頃、ですかね…」
花吹雪と花弁の絨毯。そんな美しい光景を見ながら、取り止めのない会話をするネモとアミーテ。二人には、いや、アミーテにはある予感があった。
「あの、ネモさん」
「…?なに、改まって」
「ここまで連れてきてくださって、ありがとうございました」
深々と頭を下げるアミーテ。その様子を見て、ネモは彼女が失せモノーサクラ色の髪飾りのある場所を見つけたのだと悟った。そしてもう一つ。髪飾りにアミーテが触れた瞬間が二人の別れの時だと、彼女は気づいているのだということも。
「それが、わたしの仕事。…でも、うん。お礼は受け取る」
「えぇ、受け取ってください。それくらいしか私にはできませんから」
そう言うと、アミーテはサクラの木へ近づいて一切躊躇うことなく木の根元のとある一箇所で足を止め…しゃがんでそこに積もる花弁を優しく退けた。だが花弁の下を見て、アミーテは眉を顰める。
「あれ、ない…?ジュリアの魔力はここから感じるのに…あ、もしかして!」
アミーテは思い出す。ルーシュの魔力暴走の時、一瞬見た彼女を包む光の色。それが、茶であったことを。そして、アミーテが魔力を感じる場所の土を軽く手で掘り返すと。
「見つけたっ…!!」
そこにあったのは、土に塗れてはいるものの以前と同じサクラ色の煌めきを纏う耳飾り。手を伸ばそうとして、一度それを止めてネモの方を振り返る。
「ありました、ネモさん。私の探していたもの」
「よかった。これでわたしの、案内人ネモの仕事はおしまい。…早く戻るといい。アミーテを待ってる人がいる」
嬉しそうに、でも少し寂しそうに少し離れた所から仕事の完了を告げるネモ。その姿を見て躊躇って、それでもアミーテには帰らないという選択肢はなく。せめて、と大きな声で伝えた。
「さっきも言ったけど、ありがとうございました!!…色々あったけど、びっくりもしたけど、ネモさんとここまで来られて楽しかった!私、貴女のこと忘れないでいます。ずっと!!」
その言葉に驚いて、そして優しく微笑むネモ。
「うん、わたしも覚えている。ありがとう、アミーテ…さよなら」
「…さようなら!いつか、また会えることを!」
それを最後に、アミーテは後ろを向いて髪飾りに触れ…意識を失った。
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