1-11 白雪と花吹雪

 黙々と、白ノ山の頂へ向かい歩き続ける二人。会話がない理由は、体力が減るペースを少しでも遅くする為である。これは、白ノ山に登り始める直前ネモから提案されたことだ。だがアミーテは山の木々や雪の中に見えるモノに度々気を取られ、ネモと話したい気持ちで一杯だった。


(あ、また雪の上に手袋…今度はレモン色。あっちの雪だるまには赤いマフラー)


 何故なら、今までの道中で見かけることの少なかった彩りを持つモノが山の中には多くあったからである。きょろきょろと見慣れた色を探して周りを見てしまうアミーテに、ネモが気付く。


「アミーテ、他のモノが気になるのは分かる。でもあなたの失せモノは多分頂上にあるから…あまり気にしすぎると、辿り着く前に疲れる」

「…はい。上の方から魔力を感じるので分かります。でも…ここまで色の着いたものを見かけることってなかったので、つい」


 気をつけますね、と気になる気持ちを抑えて前を向くアミーテ。そんな彼女を見てネモはその気持ちは分かる、と立ち止まって話し出す。


「…ずっと登り続けで疲れたし、そこの座れそうな切り株で少し休憩。色を持ったモノについても、少し話す」

「分かりました。…ありがとう、ネモさん」


 なんとなく分かっているかも知れないけれど、と前置いてネモは口を開いた。案内所から持って来た水で喉を潤しつつ、アミーテはその言葉に耳を傾ける。


「あれは、まだ探してくれる人を待っている失せモノたち。待ち時間が残っているうちは元々の色を持っていられる。でも時間が無くなると、色を失う。だからこの世界は基本白黒」

「そういうこと、でしたか」


 その説明にそれなら、とアミーテが話そうとすると。


「探しているアミーテがいるから、耳飾りは今も多分サクラ色のまま。あれだけ花が咲いていると、花弁に埋もれている可能性もあるけど」


 アミーテが思ったことを見透かすように、山道からでも見える大樹を見上げてネモが言葉を続けた。そして、そろそろ休憩は終わりだと告げて歩き出す。ふとアミーテが歩いて来た道を振り返ると、休む前の足跡は降り積り続ける雪に埋もれて見えなくなっていた。


「花弁に埋もれていても…魔力は辿れます」

「それに花は白い。サクラ色の…薄いピンク色、だっけ。薄い色でも目立つはず」


 言葉を交わすと、アミーテもネモを追って静かに歩き出す。先程の休憩から、どれくらいの時間が経っただろうか。ただただ山の頂上に辿り着く為歩き続けた二人の目の前が、突如開けた。ふわり、白くて…冷たくはない何かが迎えるように二人の顔を掠める。


「これは…雪、じゃない」


 そう、頂に辿り着いたネモとアミーテが目にしたのは。今まで雪が降っていたのが嘘のような太陽の光と。


「サクラの、花吹雪…」


 雪の代わりとばかりに空から降る、サクラの花弁だった。

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