1-10 白ノ山へ

 "白ノ山"、と喪失世界に居るモノ達に呼ばれている山。その名の通りずっと真っ白であり続ける山だが、その理由は簡単。


「さっっっむいです!!!なんですか防寒用の服借りたのにここまで寒いって…!!」


 白ノ山、及び周辺の白ノ平原。そこは一日たりとも雪が降り止むことのない極寒地帯なのである。


「…何回か来たことあるけど、やっぱりここの寒さは異常」

「寒すぎます…よ…ね…?」

「どうしたの、アミーテ?」


 白ノ平原を歩き続けてはや数時間。二人揃って寒さに身体を震わせていると、アミーテがようやく見えてきた白ノ山をじっと見つめた。


「…ここまで来て、分かりました。絶対にこの先にお嬢様の耳飾りがあります」


 そう断言したアミーテに、ネモが疑問を抱く。彼女が耳飾りがあると断言できた理由、それは。


「なんで、はっきり言い切れる?」

「あの山からうっすらと、お嬢様の魔力を感じるんです。いつも側にいますから、これだけは間違えません」


 アミーテにとってとても馴染みの深い…ジュリアの魔力を、山の奥から感じ取ったからだった。


「なら、あとはこの山を登り切る。…行ける?」

「寒すぎますけど、やってみせますよ。もうお嬢様のあんな悲しそうな姿、見たくはありませんから」

「アミーテ、ずっと気になってたことがある。聞いていい?」


 そう言い切るアミーテに、ネモは問いかける。


「なんですか、ネモさん?」

「…お嬢様の耳飾り、それってアミーテのモノではないはず。なのにどうして、この世界に呼ばれるほどそのモノを強く思えたの」


 その問いに、至極当然のようにアミーテは答えを返した。


「お嬢様は…いいえ、今だけこう呼びましょうか。ジュリアは、私の大切な妹のようなこなんです」

「アミーテは侍女、そのジュリアって子は主人。それだけじゃない?」


 正式にはそうなんですけどね、と頷きを返してからアミーテはある事実を告げた。


「私の妹は、ジュリアの乳兄弟だったんです。だから、私が侍女としての教育を受け始める前までは姉妹みたいに過ごしていたんですよ。妹と三人で」

「…家族、みたいなもの?」

「そういうことです。だから、可愛いジュリアが悲しむのは見たくありません。もう一度笑ってくれるなら…山登りだってやり遂げてみせましょう」


 ふわり、と優しげな表情をアミーテは浮かべた。そして、したことありませんけどね、山登りとか!と笑ってみせた。その姿を見て、ネモはぽつりと呟いた。


「そうやって、血の繋がりがなくても家族って思えるんだ。…わたしにここに来る前の記憶はないけど、それってすごい素敵だと思う」

「ありがとうございます、って…記憶がない?」


 その呟きにさらりと混じる聞き流せない言葉に、アミーテがぎょっとしてネモを見る。


「うん。わたしに喪失世界に来る前の記憶はない」

「初耳ですよネモさん…」

「案内人としての仕事には関係ない」


何も気にしていない様子のネモは、すたすたと白ノ山の入り口へ向かう。その様子にアミーテは少し驚きながら、慌ててネモの後を追った。


「それはそうですけどー…流石にびっくりしますよ」

「そう?」


 そんなやり取りをしつつ、二人は雪の降り積もる白ノ山に登り始めた。頂を覆うように白い花を咲かせるサクラの木を目指して。

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