1-9 案内人の指の先

 さらにソフィーの説明は続く。


「じゃあ、どんな場合に"居場所を失って"失せモノになるのか。さっき言ったように持ち主に失くされた時が一つ」

「はい、そう言ってましたね」

「そして他にも壊れてしまったり、持ち主と逸れてしまったり…そのモノがこの世界には"自分の居場所がない"と思った時。その時、そのモノは失せモノに成る。そしてこの世界ー喪失世界ロストワルドにやってくるんだ」


 分かってもらえたかな?と聞かれたアミーテは、こくこくと首を縦に振る。そして、彼女は説明に一致するモノが一つあると気づいていた。


「よかった。その顔…失せモノが何か分かったみたいだね、アミーテさん」

「…っ!本当、アミーテ!?」


 ソフィーの言葉にずいっと顔を近づけてくるネモ。彼女の勢いに押され、アミーテは少し急ぐように言葉を紡いだ。


「はい。私のものではありませんが、壊れてしまったことを嘆いて…戻ってきてほしいと願っていたものが一つ」

「…うん、自分のモノではないこともあり得るし間違いなさそうだね。なら、ぼくの出番はここまでだ。ネモ」

「…ありがとう、ソフィー」


 名前を呼ばれたネモは、ソフィーに感謝を伝えるとアミーテに向き直る。


「アミーテ。わたしの説明が悪かったせいでこんなに時間がかかった、ごめんなさい。…でももう一度、ここからは任せてほしい。必ず、あなたの失せモノを見つけるから」


 自らに向けられた真摯な瞳。アミーテは、その瞳を見つめ返してネモに手を差し出した。


「こちらこそよろしくお願いします、ネモさん。どうか…どうかお嬢様の大切にしていたものを一緒に探して、見つけてください」


 差し出された手に、一瞬躊躇うように触れるネモ。だがすぐにぐっ、と手を握り返して宣言した。


「うん、任せて。わたしは喪失世界の案内人。絶対にあなたの案内をやり遂げる」


 そしてアミーテから失せモノの詳細を聞いたネモは、窓に顔を向ける。


「…失せモノの場所。分かった、かもしれない」

「本当ですかっ!!」


 勢いよく詰め寄ってくるアミーテ。図らずも少し前と真逆の構図になっている状態に、ネモは少したじろぎながら確認を取る。


「失せモノはサクラ色の耳飾り、合ってる?」

「はい。壊れてしまったものです」

「そして、サクラというのは花を咲かせる樹のこと」

「そうですね。春になると薄いピンクーサクラ色の花を沢山咲かせます」


 そこまで続けて、ネモは確信を得る。そして、窓から外を見てある場所を指差した。


「…多分、大丈夫。白ノ山の頂上、ここからも見える大きな樹…普段は黒い葉をしげらせてるのに、今は」

「あの樹ですか。真っ白ですね…もしかして、花を咲かせているんでしょうか」


 ネモの指差す先にあったのは、白い花を咲かせた大樹。それは、色の違いに目を瞑ればまさしくアミーテの知るサクラの木だった。

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