1-7 案内所にて

 建物の中に入ったアミーテは、外見からは想像できない部屋の広さに驚いた。また、驚いたのはそれに対してだけでなく。


「ろすとわるど案内所…?」


 部屋の目立つ場所にはどん、と大きな看板が置いてあった。そして、その看板に書いてあるのは「喪失世界ロストワルド案内所」というこの建物の名前だったのだ。


「看板って、外に出しておかないと意味がないと思うんですが…」


 それをアミーテが見て、思わずため息をついたのは無理もないだろう。この看板があったならば、迷わずこの建物を目指すことができていただろうから。アミーテの言葉に同意して、ネモはこくりと頷いた。


「わたしもそう思う。でも所長が外には出さなくていいって言ってる」

「所長さんがですか…」


 案内所の役目を半ば放棄しているような案内所所長の発言に、唖然とするアミーテ。


「まぁ、わたしたちが案内人をしてるのはボランティアみたいなものだから。これくらいでいい、のかも?」

「そうなんですね…?」


 そういうものなのかな?と少しアミーテが疑問に思っていると、それに気づいたのかネモがさらに言葉を重ねる。


「それに、なぜかは知らないけど」

「知らないけど?」


 首を傾げながら話すネモ。話の続きをアミーテが促すと、彼女は確か…と記憶を辿る。


「案内人を必要としている人には、自然とわたしたちの誰かが出会う。だから今まで問題はない、らしい」

「えぇ…。でも、ネモさんとの出会いを考えると否定もできませんね…」

「ん。実際、わたしが案内人になってから問題が起きたことない」


 不思議なシステムに、アミーテが呆気にとられる。そうしていると、ネモがハッとしてアミーテに問いかけた。


「…いけない、話さなきゃいけないのは失せモノのこと。アミーテの失せモノは何?」


 話を若干強引に元に戻したネモ。だが、早くジュリアの元へ戻りたいアミーテはそれに乗っかった。


「ええと…失せ物を探す、でしたっけ」

「そう。アミーテは失せモノを探す為にここに来た」


 その言葉にふむふむと相槌を打つと、アミーテは一つ確認しなければいけないことに気づいた。


「あの、ネモさん。その失せ物を見つければ、私は元の場所に戻れるんですよね?」

「うん、戻れる」


 真剣な顔で質問をするアミーテに、あっさりとネモは答えた。その答えに安心するアミーテ。心なしか力が抜けた彼女に、ネモは出会った時の台詞をもう一度投げかける。


「…だからあなたの探しているモノを教えて、アミーテ。失せモノが分からないと、探せない」

「え、っと…」


 その問いかけに彼女が返せたのは、戸惑う姿だけだった。何故なら。ネモの言う「失せ物」が何なのか、アミーテには全く分からなかったのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る