1-6 喪失世界へようこそ
唐突に放り込まれた白黒の不思議な空間。
「うぅ…何なのここ。色が無くて変な感じがする…」
その中でアミーテは何とか状況を把握しようと辺りを見渡す。
「…ん?あれ、建物だよね?」
すると、近くに建物があるのを発見した。なお建物の色は当然のように白や黒、グレーといった無彩色で構成されている。
「うーん…なんでお屋敷の扉からこんな所に来ちゃったんだろう。早く帰らないとお嬢様をお待たせしちゃう…よし、とりあえずあの建物見てみよう」
そう結論を出して、人がいるといいなと思いながらアミーテが建物に近づこうとすると。
「…ん?見慣れない人。もしかして客人?」
建物からちょうど出てきた少女と目が合い、声を掛けられた。何故か白黒の空間の中、少女だけ鮮やかな色彩を纏っている。
「あ、ええと、はじめまして。私はアミーテ・フィーナーと言います。ここの住人の方ですか?」
とりあえずこの謎の空間に一人ではないことに安堵するアミーテ。少女からこの空間について何か情報を得られないか、と話しかけてみる。すると、とことこと少女が近寄ってきて。
「アミーテ、自分の名前?覚えてる?」
「えっ?アミーテは私の名前ですし、忘れることはないですが…?」
当たり前のことを確認してくる少女にアミーテは狼狽える。その間に少女はどこか納得した表情になり、アミーテに告げた。
「うん、分かった」
「えーと…何が分かったんですか?」
少女の発言が理解できず、アミーテは思わず問いかける。そして返ってきた答えはというと。
「あなたはこの世界の客人。ーようこそ、
「客人?ろすとわるど?何なんですかそれは」
さらにアミーテを混乱させる言葉の羅列だった。
「喪失世界は失せモノたちの世界。客人は失せモノを探しにこの世界に来た人たちのこと」
だから、と少女は言葉を続ける。
「アミーテ、あなたにも探しているモノがあるはず。それを教えて」
「探しているモノ?まって、待ってくださいよく分からないです。あと貴女は一体誰なんですか!?」
話に全く着いていけず、悲鳴混じりの声をあげるアミーテに少女は答える。
「わたしはネモ。
そう言って出てきたのとは別の建物の中へ入っていくネモと名乗った少女。この空間…ではなく世界から脱出する唯一の手掛かりを持っているだろう彼女を追って、アミーテは一歩、足を踏み出した。
「急ごう。彼女が変化に気が付いたら手遅れ、失せモノに成ってしまう」
ぽつり、アミーテに聞こえないようネモが呟く。それを知っている者しか気づかないように、彼女の深緑色の髪はさらに深みを増していく。とろりとした蜂蜜色の瞳は、凍えたかのように白く濁り出す。
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