1-4 欠片になった宝物

 ルーシュが魔力暴走を起こした翌日の朝。朝日に照らされて目を覚ましたジュリアは、昨日の出来事を思い出して飛び起きた。


「ルーシュ…!ルーシュは大丈夫なの!?」


 居ても立ってもいられず、ベッドから出ようとするジュリア。そんな彼女に、昨日から来ている医師のイアーナが声を掛けた。


「ジュリアお嬢様、ルーシュお嬢様でしたら隣のベッドに寝ておられます」


 イアーナの言葉を聞いてジュリアが隣のベッドを見る。すると。


「むにゃ………おやついっぱい……」


 確かにそこではルーシュが穏やかな顔で眠っていた。


「…ぐっすり寝ているみたいですね?早く目を覚まして、可愛い碧色の瞳を見たいものだけど」


 あまりに幸せそうな寝顔に、ふふ、とジュリアの唇から笑いが漏れた。


「魔力暴走が随分激しいものだったようですから、恐らく数日は寝ていらっしゃるかと」


 そのイアーナの説明に少し不安になるジュリア。


「それは…大丈夫なのですか?」

「魔素の使いすぎが原因ですから、それが満たされれば自然と目が覚めますよ」


 今まで魔力暴走を起こした子たち皆そうでしたからね、とジュリアを安心させるように言葉を続けるイアーナ。それを聞いて、ジュリアはようやく安心した。


(…きっと、もう見つからないわよね)


 安心した彼女が思い出すのは、耳飾りのこと。昨日はルーシュのことしか考えている暇などなかったジュリア。耳飾りのことは頭から振り払っていた。


(でも、探すだけでも)


「アミーテ、…あら、いないの?」


 ボロボロになった自室に向かおうと、アミーテを探すジュリア。だが、部屋にいたのは他の侍女。アミーテの姿はどこにもなかった。


「アミーテでしたら、ジュリアお嬢様の部屋に行くと言って部屋を出ましたが…」

「…そう、だったのね」


 アミーテが今何をしているのか、瞬時に悟るジュリア。それが正解だと告げるように、扉をノックする音が部屋に響く。侍女が扉を開くと、そこにいたのはやはりアミーテ。


「…目覚めていらしたのですね、ジュリアお嬢様。申し訳ございません、只今戻りました」


 唇を噛み締めるのをほんの少し隠しきれていないアミーテが、ジュリアに言葉を掛ける。その胸元で抱えられているのは、白いハンカチで包まれたなにか。


「アミーテ。…ありがとう」


 ジュリアがそう告げると、驚いたようにアミーテが顔を上げる。


「…分かって、らっしゃるんですね。ジュリアお嬢様…これを」


 アミーテはハンカチごとジュリアに渡した。その中身を見て、ジュリアはぽろりと一粒涙を流した。


「あぁ…これだけでも見つかって、良かったわ。…本当に」


 開かれたハンカチの上には、小さなサクラ色の欠片がいくつか乗っていた。

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