1-3 暴走する魔力

 十数分後。


「ルーシュ、いい?これから使うのは

水を出す魔法よ。呪文は『アクア』」

「『アクア』…うん、分かった!」


 ジュリアはルーシュと二人で魔法を使う準備を終えた。


「分かった?うん、そうしたらいち、に、さん、で一緒に呪文を唱えましょうね」

「はーい、お姉さま!」


 いち、に、さん。そのタイミングでジュリアはルーシュの魔素に働きかけた。


「「アクア」」


 そして、呪文を唱える。しかし水が出ることはなかった。


「…?お姉さま、おみず、出な…ぃ…」

「ルーシュ!?」


 水が出ないことを不思議に思い、ジュリアの方に振り向こうとしたルーシュ。彼女の瞳から光が失われ、身体から力が抜けていった。さらに、その身体は茶色の魔力に覆われていく。


「…魔力暴走…っ!?」


 魔力暴走。

 ジュリアはこの現象をよく知っていた。何故なら、彼女も魔力発現の際に魔力暴走を起こしたからである。つまり、これはルーシュの魔力が発現したことを表すわけだが。


「アミーテ、お父様にこのことを伝えて!」

「でもジュリアお嬢様が!…きゃ!?」


 暴走した魔力は、発現者以外のものへ襲いかかる。


「私は自分だけなら守れる!だから早く!!」

「…っ、承知いたしました、マーレン様を呼んで参ります!」


 ジュリアの時は、ここまで酷い暴走ではなかった。でも、今回は。


(…魔力が、強い。ルーシュに近づけもしない。アミーテを逃して正解ね……)


 ジュリアの時とは比べ物にならないレベルの暴走。それが今、ジュリアの部屋でルーシュを中心に起きていた。窓が割れる、椅子やベッドが飛んでいく。壁からみしみしと聞こえてはいけない音がする。

 ジュリアはふっ、と鏡台の引き出しに仕舞った耳飾りのことを思い出す。


(…仕方ない、と思うしかないのかしら)


 ジュリアは少し重くなった心を誤魔化して、未だに茶色の光に包まれているルーシュに集中した。


「ジュリア!ルーシュは!?」


 必死に自分を守りながら、ジュリアはルーシュの様子を伺い続ける。そうしている内、アミーテから連絡を受けたマーレンが部屋に駆けつけた。


「部屋の中央に!魔力は茶色、おそらくは土属性です!」

「分かった、私が魔力暴走を抑えるからジュリアは外に出て休みなさい」

「分かりました、お父様」


 ルーシュの魔力暴走を抑え始めて数十分ようやく、彼女の魔力暴走は止まった。ジュリアの部屋の全てを壊し尽くして。

 マーレンがルーシュを抱えて部屋から出てくる。


「お父様!ルーシュは無事なのですか!」


 心配のあまり部屋から少し離れた場所で待っていたジュリアは、マーレンに駆け寄る。


「無事だから安心しなさい。ジュリアも私が来るまでルーシュの様子を見ていたんだ、疲れただろう」


 ジュリアの心配を理解したマーレンはルーシュと一緒に休むといい、と声を掛ける。


「ありがとうございます、お父様…後ほど、魔力暴走の経緯についてお伝えします」

「あぁ、分かった。でもそれは休んでからだ」

「はい、お父様」


 三人で医者が待つ部屋に向かい、ルーシュと並んでベッドに入る。疲れですぐ眠りについたジュリアが目を覚ましたのは翌日の朝。ルーシュが目覚めたのはそのさらに数日後だった。


「…ジュリアお嬢様のお部屋、ボロボロですね。せめて、欠片だけでも見つかればいいのですが」


 ジュリアが眠っていた時のこと。アミーテはジュリアの部屋に向かい、ひたすらに何かを探していた。

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