1-2 二人で使う魔法

 貴族の家系の者は、通常例外無く五歳までに何かしらの属性魔力を発現する。ヒューウィア家は代々水関連の属性魔力を発現する者が殆どであり、父のマーレンも水属性の魔力持ちだ。ジュリアは水属性、兄のエスターは氷属性の魔力を五歳になる前に発現させた。

 なお母のアイラは地関連の属性魔力を発現しやすい家系の生まれの為、地属性の魔力を持っている。

 だが、ルーシュは五歳になり…六歳の誕生日が近づいてもなお、魔力が発現する様子がない。最近ではもしかすると魔力がないのでは、とすら考えられている。


「あ、あのお姉さま、魔法見せてです!」


 そんなルーシュにとって、魔法は当たり前のものではないのだ。普段は周りに気を遣ってか、何も気にしていないような…いや、多少元気すぎるくらいの振る舞いを見せている。


(でも、気にしていないわけがないわ)


 自分の失言を心底後悔するジュリア。だが、ルーシュが元気な様子を見せようとしているのを見て今辛いのは彼女だと気合を入れる。


(ここで謝っても意味がない…わよね。なら…)


 これで合っているのかは分からない。それでも暗い顔を隠し切れていない妹を本当に元気にしたい、とジュリアは勇気を振り絞った。


「ね、ルーシュ。それなら二人で魔法を使ってみましょう?」

「えっ…?ルーシュは魔力がないのですよ、お姉さま?」


 ジュリアの言葉にきょとんとするルーシュ。ほんの僅かにだが、暗い雰囲気が薄らいだ気がしたジュリアは言葉をつづける。


「魔法についての本で、魔力を発現する前の子でも補助さえあれば魔法を使える方法があるって見たことがあるの」


 それは、魔力になる前の魔素を使う方法だった。魔力が発現する前、もしくは発現しなかった者でも魔力になる前の魔素は生まれつき持っている。だからルーシュも魔素自体は持っているわけで…その魔素を魔力持ちの者か魔法具を使って魔力に変換すれば、魔法は使える。ただ内包する魔素量は本人以外にははっきりとは分からないため、この方法で使っていいのは初級魔法に限られている。


「じゃあ、お姉さまに手伝ってもらえばルーシュも魔法、使えるのです!?」

「えぇ。だから、やってみない?」


 本で読んだことをジュリアが噛み砕いてルーシュに伝えると、彼女の顔が一気に明るくなる。


「お姉さま、ジュリアお姉さまっ!ルーシュ、それやりたいです!!」

「慌てないの。ほら、こっちにおいで」


 ぱたぱたとジュリアに近づくルーシュ。ルーシュを膝の上に乗せると、ジュリアは彼女の魔素量をざっくりと確認する。


(うん、これくらいあれば初級魔法はできそう)


 そう思ったジュリアはルーシュの綺麗なネイビーブルーの髪を撫でると、水の初級魔法の呪文を彼女に教えようとする。それが何を引き起こすか、知らないままに。

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