四合目 飲み会サークルを作ろう

「決めました。私、決めました~」

 朝一番、今日もササは巧の部屋へと無断侵入してきた。昨日と違うところはすでに巧は起きていたことだろうか。けれど、巧は不思議で仕方がない。

「お前、壁抜けはやるなと言っておいたよな」

 人に見られては大事になってしまうので、巧は厳命していた。

「はい。言いつけは守りました」

「鍵はかけてあったはずだが、どうやった?」

「巧さんの家の鍵をあけるくらいの能力は持ってます」

「お前、どんどん能力が後付されていってないか? どうやって入ってきたんだよ」

「ピッキングで、こうですね」

 ササは鍵を開ける作業を再現してみる。時間にしてわずか三秒ほどである。

「ただの犯罪じゃねーか。こえーよ」

「そんなことより、私、決めました!」

「なにをだよ」

 本題に移った。

「私、昨日のような集まりの幹事になりたいです」

「というと?」

「手伝ってください」

「やっぱり」

 こういうことをしたいとササは思いつくが、どうすればいいのかわからない。そして、頼れるのは巧だけとなれば流れは一つだった。

「昨日みたいに、情報を張ったりするにはどうすればいいんですか?」

 ササは聞いてくるが、巧も詳しくは知らない。サークルを作って、どこかに申請すれば可能なのだろうが、その手順は把握していなかった。

「俺もよく知らないから、そういうのに詳しい奴に聞きにくことにしようか」

 そういって、巧は一人の悪友に電話をかけた。


 大学構内の休憩所で巧はとある人物を待っていると、「よう」と、声がかけられる。

「お前から連絡してくるなんて珍しいじゃないか」

「苦肉の策だからだよ」

 巧は自分から会う約束をしたにも関わらず、声をかけられて渋い顔をする。その理由は単純だった。

「あれ、そこにいるのは今、話題の和服美人ちゃん。巧の知り合いだったの?」

「そうだよ」

「そうなんだぁ。へぇ、いいこと知ったな」

 男は巧への挨拶もそこそこに、ササの方を向く。

「はじめまして、澤伊之助っす。あなたの名前はなんてーの?」

「あ、あの、えっと、ササです」

 巧の紹介であるから名乗らなければいけないのだろうが、ササはフルネームを言うべきか悩んだ。

「へ~、ササさん。ササちゃん、さっちゃん。うん、さっちゃんって呼ぶのがいいかな。よろしくね、さっちゃん」

「は、はぁ。よろしくお願いします」

「で、さっちゃんはさぁ」

 伊之助は誰よりも軽く、ササへと近づこうとするが、「で、お前への用なんだけどな」と、巧がガードしてきた。頼れる男ではあるのだが、あまり伊之助とササを絡ませるのは嫌だった。

「なんだよぉ。もうちょっと、俺にも美少女と話をさせてくれても罰は当たらないだろ。俺は一日に原稿用紙五枚分は美少女と会話をしないと死んじまうんだよ~」

「そうか。なら、お前には最近流行りの『ラブマイナス』のソフトを与えよう。これでいつでも美少女と会話できるぞ。本体は自分で買ってくれ」

「お前、ひどいな。まぁ、誰とも話せなければ、そういうので代用するけどさ。それに昨日は俺のバイブル『乙女の園へようこそ」の愛海ちゃんと楽しいランデブーをしてきたから大丈夫だぜ。もちろん、十八禁の展開もありだ。俺はもう二十歳だからな!」

 伊之助は今日も無意味なハイテンションで巧の冗談に付き合う。

「あ、あの、巧さん。この方は?」

 ササにとってはなぜこの男がここにいるのかも、巧との関係もわからなければ、教えてもらうしかない。

 相手から興味を持ってもらって、チャンスと思わないはずがない。伊之助は巧が紹介するよりも先に自己紹介を再開させる。

「俺? 俺に興味持ってくれるの? 優しいなぁ。そこまで想ってくれるなら、普段はシャイで人見知りな俺だけど、自分のことを語るのもやぶさかではないね。それが、さっちゃんみたいな美少女ならなおさらだ」

「こいつとは、ただゼミが一緒になっただけだよ。あんまり気にしないでいい」

 巧は長くなりそうな話を切って、本題に入る。

「で、お前はよく、飲み会を企画してたよな」

 伊之助はササと話すチャンスを潰してくる巧に少しだけぶすっとしながらも「そうだよ。巧ちゃんもたまにはゼミの交流会に来てくれよ」と、きちんと返事はする。

「どういうの、企画してるんだっけ?」

 伊之助は自分の手帳を取り出して、スケジュールの箇所を巧に見せる。そこには、毎日なにかしらの予定が入っているが、イベント名に首を傾げるものが多い。

「テスト終了お疲れ様コンパや、新人歓迎コンパはいいとしても、この『光信先輩。祝、六回生決定コンパ』や『藤先輩、内定決定、っていう夢をみたんだコンパ』ってなんだよ」

「その名の通りだよ」

「祝いごとでもないし、お前の周囲にはダメ人間が多いのか?」

「いいんだよ。あの人らは飲む理由が欲しいだけだし、それよりも、あの人らがダメ人間というのは、……否定しない!」

 伊之助はけらけら笑い、今日もコンパがあることを巧に伝える。

「いや、今日は」

 けれど、昨日のことがあったので、あまり乗り気ではなかったが、「あのあの、それって、私も参加できますか?」と、気にしていないのか、ササは乗り気だった。

「ん? 大歓迎だよ。綺麗な女の子はもう、なんの関係なくたって参加して欲しいよ。もしよかったら、さっちゃんのために二人だけのコンパとか開こうか?」

「エヘヘ~、それは遠慮します」

 どさくさに紛れてササを誘うが、すぐに拒否される。けれど、慣れたものなのか、意に介さず、集合時間と場所を伝えた。そうなれば、巧も参加せざるを得ない。

「それ、あたしも参加するから」

 どこから話を聞いていたのか、巧が参加すると伝えた直後、朝陽もぬっと現れ、伊之助に声をかける。

「うわお! お前、どこから現れたんだよ。っていうか、朝陽は前に聞いたとき、参加しないって言ってなかったか?」

 急な参加者に、伊之助はにやにやと笑いながら聞いた。

「いいじゃん、別に。それともあたしは参加したらダメなの?」

「いや。朝陽も十分美人だから構わないさ。けど、どういう心境の変化かなって思ってさ。誰か気になる奴でも参加するのか?」

「いいでしょ、どうだって。参加するから、絶対行くから!」

 朝陽は気が変わった理由を悟られないために、用件だけ伝えて去っていく。

「楽しくなりそうだな」

「そうだな。参加人数が増えることはいいことだ」

 伊之助の問いに巧は何気なく答える。その反応を見て、ササと伊之助は不憫そうに溜め息をついた。

「な、なんなんだよ、その反応は」

「いえ、大変そうだなぁと」

「右に同じく」

 二人に呆れられているが、巧は理由がわからない。二人がなにに対して意見しているのかすらわかっていない。

「なら、俺はこれで。約束の時間に遅れんなよ」

 伊之助もこの場から立ち去ろうとするが、巧は「ちょっと待ってくれ」と、声をかける。伊之助を呼んだのは、今日のコンパに参加するためではない。

「それより、本題なんだけどな」

 巧は伊之助に、学内でのサークルの作り方を詳しく聞いた。

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