一合目 日本酒との出会い
とりあえず。
この言葉が曲者だった。
就職ははなから考えていなかった。だからといって、なにもしないというのは世間体が悪い。
だから、大学に行く。
流されるままに入った大学生活一年目はそれなりに楽しかった。けれど、二年目にもなれば慣れが生じてきてしまう。
来年には入学式のために購入したスーツを着直し、周囲と同じように就職活動を始めて、右に倣う行動をするだろう。
今日だってそうだ。子供のころは盛大に祝ってもらった誕生日。けれど、今はいつもと同じように数人の友人が下宿を訪れ、誕生日会という理由にかこつけて、いつもと同じようにただ騒いでいる。特別な日ではない、ただの日常の延長線だった。
二十歳の誕生日を迎えても、小学校の卒業文集で書いた二十歳の自分とは程遠い現在。サッカー選手になる夢は中学生になったところで諦め、お金持ちになるという目標は宝くじでもあたらないかなと他力で願う。昨日となんら変わりない今日に、明日や未来のことについても容易に想像がついた。
冷めているわけではない。悟っているのだ。
どこかの新書のタイトルになりそうな言葉を言い訳に、巧は毎日を無為に過ごしていた。
誰もいなくなった部屋に一人。巧はいつものように眠い目をこすりながらベッドに横になる。
あと少しのモラトリアムを満喫しよう。そう思って、目を閉じた。
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