カンパイッ! ~お酒は二十歳になってから!~
小鳩かもめ
プロローグ 木本巧とササ・エレシオールの約束
木本巧の朝は異常な光景から幕を開けた。目を開くことはできるが、視界の先には女が仰向けに寝ている巧に馬乗りし、巧の口を手で塞いでいた。
「知ってます? 人間って体中の水分が二十パーセントを切ると死んでしまうんですよ」
目の前の女はにっこりと恐ろしいことを言ってくる。
「私、頑張れば人間の水分くらい蒸発させられるんです。この意味、わかります?」
巧は「むぅ、むぅ」とうめき声を上げるが、その手が口元から離れることはない。
「まぁ、そのくらい私は怒ってるってことなんです」
女はさらににっこりと笑顔のレベルを上げた。巧はあまりの怒気に大人しく黙ることしかできない。
「わかってくれました? なら、誓って下さい。もう、私のことはないがしろにしない。ぞんざいに扱わない。わかりましたか?」
女の質問に巧は頷く。相手が誰なのかも、なにを指しているのかも理解していなかったが、本能が首を縦に振れと告げていた。
「よかったぁ」
女は巧の反応に安堵し、口を塞いでいた手のひらを離す。巧はようやく、落ち着いて彼女を見ることができた。
艶やかな黒髪が腰元まで滑らかに伸びている。勝気な瞳は整った顔立ちをより一層映えさせる。一見しないでもわかるほどの美貌の持ち主。
けれど、巧は一瞬で目を逸らしてしまった。理由は簡単、彼女は自分の上にまたがるようにして密着していることと、こちらが少しうめき、身動ぎしたせいで女の和装は気崩れてしまい、視線のやり場に困ってしまったことにある。
「はじめまして、私の名前はササ・エレシオール。あなたは?」
彼女は巧の視線に気づくことなく、あっけらかんと自己紹介を始めた。巧も名乗り返さなければいけないはずだが、まず一言、「どいてくれないかな?」と視線を外しながら切りだす。
ササはようやく自分の体勢が誤解を生んでしまいそうなものだと、気づき、頬を染め、「キャッ」と、短いながらも可愛らしい悲鳴をあげ、巧の元から勢いよく離れた。
「うぅ~」
なおも朱に染まる頬を手の平で隠しながら、呻いている。そして、決意したように巧を見上げ、ポツリと言った。
「責任、取って下さいね」
これが、その日、成人を迎えた木元巧とササ・エレシオールのファーストコンタクトだった。
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