第九笑 第三勢力(一匹?)
「――ンアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
突然押し寄せる凄まじい快感に、俺は絶叫した。
今まで味わったことの無い快楽の波が全身を駆け巡り、その場で痙攣しながら倒れてしまったのだ。
「き、急にどうしたんだゼリ? 俺の触手には毒なんて無いのに倒れたゼリ……」
「こ、この症状……。も、もしや……!」
「な、何か知っとるんか? イエロー」
ゼリーフィッシュスベリーの驚きをよそに、何かに気づいたイエローに対して質問するピンク。
「ここに来る前に、お笑い大喜利ライブの負けた罰ゲームで『超敏感肌飲料水イキハテール』を僕たち三人は飲んでしまったんだ!」
「「なにそれ怖っ!」」
不気味な飲料水の名を聞き、ピンクとブラックは恐怖する。
「恐らくレッドはさっきの触手攻撃を避けきれず、超敏感肌になった体に攻撃が当たって――」
「隙ありゼリ!」
「――絶叫をハヌウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!」
「「「イ、イエロー!」」」
状況の解説をしているイエローにゼリーフィッシュスベリーの触手が絡みつき、快楽の末に喘いでしまうイエロー。
「こ、これはマズいですヨ! ここは一旦、距離を――」
「背後からの触手にご注意をゼリ」
「――取ってンホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
レッド,イエロー,ブルーの三人はゼリーフィッシュスベリーの触手に絡め捕られ、動きを封じられてしまった。
「何かよく分からんゼリが、お前らの作戦は失敗に終わったようゼリね~。さっきのお返しで、強く締め付けてやるゼリ!」
「「「アアアアアン! そこはらめぇえええええええええぇぇぇええええええええええええええええええ!」」」
「いや、絵面が汚すぎるわ! 野郎三人の喘ぎ声なんて聞いてられへん!」
「くっ! 心地よさそうに痙攣している仲間三人を人質に取られてしまったぞ! 万事休すか……?」
「さあ、バクショウジャー。覚悟するゼリ!」
「「ぐぬぬ……」」
「「「ハァ……、ハァ……、ハァ……。あふん……(ビクビク)」」」
絶体絶命のピンクとブラックに、絶頂寸前の三人。
このままバクショウジャーは悪の怪人に為す術なくやられてしまうのか……。
――その時だった。
「フニャア!」
「――ゼ、ゼリ……!」
何かがゼリーフィッシュスベリーの目の前に現れたと思いきや、目にも止まらぬ速さで触手を切り裂き、レッド達三人を救出した。
「「「あん!」」」
触手から逃れた三人は地面に落ちた衝撃の快感で、さらに痙攣していた。
「お、俺の触手をよくも……。誰だゼリ!」
「な、何や……? 何が起きたんや?」
「ピ、ピンクよ……あれを見ろ!」
ブラックが何かを見つけ、ピンクが分かるよう、その方向に指を差す。
ゼリーフィッシュスベリーも同じくその方向を見ると、上空に設置してあるネオンサインに人影が見えた。
「フニャア~ン」
それは黄緑色をしたフワフワの毛(ファー)を手足の先と、チューブトップ,ホットパンツ部分にのみ纏い、際どい恰好をしていた。
掌の可愛らしい肉球とは相対的に、指先からは鋭い爪が顔を覗かせており、それを使って先ほどの触手を切ったのであろう。
何と言っても特徴的なのはパッチリとした猫目の上から付けている仮面と頭上に生えている猫耳だ。
その者は今、右手で毛づくろいをして悠々自適な空気を醸し出している。
「何だあの破廉恥な格好をした女子(おなご)は? 新たな怪人か?」
「でも、それなら何でレッド達を助けてくれたん?」
「よ、よくも俺の触手を……! 絶対に許さんゼリ!」
ピンクとブラックが状況の理解に追い付けず、困惑しているとゼリーフィッシュスベリーが怒りを顕わにして猫耳娘に食って掛かる。
「ウニャ?」
「さっきからふざけた態度を取りやがってゼリ! 俺様の本気を見せてやるゼリ!」
そう言うと、ゼリーフィッシュスベリーは体内に隠してあった触手を全て出した。
その数、実に三十本。
「ま、まだあんなに隠してたんか……!」
「触手で捕らえて痛めつけた後、保健所にでも送り込んでやるゼリ!」
「ニャッ! フシャーッ!」
ゼリーフィッシュスベリーの殺気に感づいたのか、猫耳娘は眉根を寄せて威嚇し始めた。
「俺の触手で苦しめゼリ!」
ゼリーフィッシュスベリーの挙動が読めない触手攻撃が猫耳娘を襲う。
「「あ、危ない!」」
ピンクとブラックが急いで、猫耳娘を庇おうと走るが、それは杞憂だった。
「ウニャッ!」
「「「ッ!」」」
猫耳娘の行動に、ピンクとブラックは勿論、ゼリーフィッシュスベリーも驚く。
何故なら猫耳娘は全ての触手攻撃を難なく躱して見せ、着実にゼリーフィッシュスベリーとの距離を詰めていたからである。
「くっ……! このゼリ!」
焦るゼリーフィッシュスベリーが触手攻撃の激しさを増して挑むが、猫耳娘は四方八方に飛び、時には体をひねらせ、一度も掠ることなくゼリーフィッシュスベリーの頭上にまで近づき――
「あっ! 猫耳娘が手に持っている物って……」
「ドライアイスやん! いつの間に、持ってたん?」
「ま、まさか触手攻撃を避けながらレッド達が床に落としたドライアイスを拾っていたというのか……!」
「なにそれ! とんでもないスピードやないか!」
「フシャー!」
「――ゼ、ゼリ!」
猫耳娘がドライアイスをゼリーフィッシュスベリーに投げ落とし、凍った体にその鋭い爪で両断した。
「…………っ!」
ゼリーフィッシュスベリーは断末魔を上げることなく、猫耳娘により倒されてしまった。
「「す、凄い!」」
「ウニャ~ン」
猫耳娘は何事も無かったように伸びをして、体をほぐし、四足歩行でレッドの所まで歩くと――
「(ペロリ)」
「あああああん!(ビクビクビク)」
レッドの仮面を舐めて、そのまま建物を跳躍で簡単に登り、姿を消してしまった。
「あの猫耳娘は一体……?」
「さあ……? でも、助かったから良いんやない? とりあえずウチらは床に転がっているキモい三匹を連れ帰るとしようや。ほら! 行くで!」
「「「アヒィイイイイイイイイン!」」」
キモい三匹はピンクとブラックに足を掴まれ、地面に引きずられるのすら快楽に感じながら本拠地に戻るのであった。
* * *
「な、何よあの猫耳は! 怪人、倒されちゃったじゃない! キィー! ムカつく! ムカつく!」
「…………」
戦いの一部始終を見ていた《T-up》の二人はそれぞれのリアクションを見せていた。憤慨している阿月フレムに対し、イーストウッドはどこか冷静であった。
「一体、誰なのよ、アイツは? 新しいバクショウジャー? もう! 意味分かんない!」
「阿月さん……。少しよろしいか?」
「あっ? 何よ!」
激怒しているフレムに、イーストウッドが静かに問う。
「先ほどお話しした捨て猫に、あなた何かしましたか?」
「うえっ! な、なななな何かって?」
イーストウッドの質問に明らかに狼狽するフレム。
「例えば、失笑力を与えたとか……?」
「そ、そんなしょうもない事に私の高貴な失笑力を使うわけないでしょ! き、今日は疲れたから帰る! フンだ!」
彼方の方向へ飛び去るフレムの背中を見つめながら、イーストウッドは思案する。
「捨て猫の力だけであそこまで戦える? 阿月さんが失笑力を使用したとして、何故同じ失笑力で生み出した怪人を襲ったのか……。これはまだまだ研究する必要があるようですね……」
イーストウッドは不敵に笑い、その場を後にした。
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