第七笑 偽りの平和

「――では本日最後の大喜利のテーマはこちら! 『声も見た目も良い声優がファンにアームロックをかけられるほど大炎上』何をした?」


 大喜利のお題が出て、俺たち若手芸人は一斉に用意されたフリップに答えを書き出す。


「性別は男性でも女性でも結構です。面白い回答を期待してますよ!」


 司会を務めてくれている先輩芸人がトークで間を繋げてくれている隙に、俺と『ペットボトル』というコンビ芸人の片割れである木ノ元,下ネタトークを得意とする『ビチャ乃介』の三人が、これまで培ったお笑いの力を発揮する為に我先にと挙手をして答えようとする。


 ――そう。


 俺が現在いる場所は小さなライブ会場。主催した司会の先輩芸人にオファーしていただき、『若手芸人、スーパー大喜利ライブ 負けたら残念、地獄イキ!』に出演している最中なのだ。


「攻増ー。しっかり笑い取ってよ」


「頼みますよ、攻増さン。負けたら罰ゲームが待ってるんですかラ……」


 ちなみに今回は三人一組の三チームが戦っており、俺のチームはたまたまこの日スケジュールが空いていた突夫と蒼太に声をかけて決まった、バクショウジャー内のメンバーとなっていたのだ。


 決起集会から一か月ほど経過したが、《T-up》や怪人などの動きはなく、俺たちはそれぞれの本業に勤しんでいた。ヒーローである前に芸人である以上、目の前のお客さんを笑わし、実力や笑力を高める必要があるのだ。


「さあ、一番早く手の上がったのは攻増! 答えをどうぞ!」


「女性声優で、自分より若い声優がアフレコしている後ろで一文字喋るごとに舌打ち」


『ワハハハハハ!』


「これは嫌ですねー。先輩の圧力を背中で感じながら『チッチ、チッチ』とうるさくてアフレコに集中できそうにないです。でも、アームロック案件かは微妙かな? 続いては木ノ元、お願いします」


「ハイ! 結婚しているのを秘密にしている男性声優で、女性の古参ファンが手渡してくれたお菓子に対して『お! これ、うちの嫁が大好きなんだよ! いつものキモイ手紙じゃなくてこーゆーのが嬉しい』と、うっかり吐いてしまう」


『ギャハハハハ!』


「うーん、これは手痛いうっかりだ。そしてアームロックでは済まず、ぶん殴られると思う。じゃあ次は、ビチャ乃介! 回答をどうぞ」


「ムラムラしている女性声優で、後ろの調整室の人たちに正面の自分が見えないのをいいことに、常にノーパン,スカートたくし上げで大洪水しながらの仕事」


『ヒャアアアアア!』


「お客さんを引かせないでください! エッチな漫画の読み過ぎです。もう少しお題に寄り添ってください! 次、攻増」


「収録スタジオのマイクが一本しかなくて、口臭がひどい大御所の声優に仁丹を五千粒手渡す」


『あーっはっはっはっはっは!』


「これは大炎上どころか職場復帰できなくなるかもしれない喧嘩の売り方ですね。木ノ元、お願い」


「ハイ! 自分が気に入らない声優の悪口をネットに書き込み、隠し撮りした気の抜けた表情をSNSに拡散する」


『うわー、サイテー!』


「それは逮捕案件! アームロックじゃなくて、両手に手錠をロック! 大炎上するだろうけど、大喜利なんだからもう少しバラエティーに富んだ回答をするように! 最後、ビチャ乃介」


「女主人公が活躍するアニメで、主演の女性声優が雑誌インタビューを受けた時、共演する男性声優陣について聞かれ、『○○君は淡泊。○○君はねちっこい。○○君は終わったあと優しい。○○君は毛深くて苦労する』と、何やら意味深な評価で語った」


『おー!』


「ここにきてかなりお題に沿った回答でしたね! それでは結果発表! 優勝は――ビチャ乃介率いる『チュパチュパペロペロ』です! おめでとう!」


『ワー!(パチパチパチパチ)』


「「「マジかよ!」」」


 俺たち『お笑い信号機』はふざけた名前のチームに負けてしまった。


「このライブ専用のアンケートフォームに送られた他の感想としましては、『下品だったが、結局それが一番笑えた』『他のチームも悪くなかったが、答えのレベルが似たり寄ったりだった』『普段から人の事を悪く言う赤利攻増が嫌い』とのことでした。皆さん、ご協力ありがとうございました」


「おい! ただの俺のアンチがいるじゃねぇか! 審査やり直せ!」


 憤慨している俺を無視し、先輩芸人は淡々と進行する。


「それでは一番お客さんの評価が低かった『お笑い信号機』には、罰ゲームとして毒蝮製薬から出ている『超敏感肌飲料水イキハテール』を飲んでもらいます」


「「「なにそれ怖っ!」」」


 先輩芸人が何やら怪しげなドリンクを用意して、俺たち三人に一瓶ずつ渡してきた。


「まぁまぁ。ディスカウントストアのオモシロ商品だし、警戒せずに飲んでみてよ」


「は、はぁ……。まぁ、負けちまったし、そりゃ飲みますけど……」


「なんか気持ちの悪くなる色と臭いでス……。これ本当に売っていいものなんですカ?」


「リアクションの幅を広げるため、ここは我慢して飲もう……」


 芸人として罰ゲームを断るなんてありえない為、三人で意を決して一気にドリンクを飲み干す。


 ――すると、俺のスマホが鳴り響き、着信画面の名前に茶羽博士が表示されていた。

 急いで出ると、その声は慌てている様子だった。


『攻増君! 蒼太君! 突夫! 怪人が出た! すでに桃瀬君とクロ君が現場に向かっている! 君らも急いでくれ! 久々の戦闘だから、くれぐれも用心するんだぞ! 場所は――』


「「「――っ!」」」


「あ! オイ!」


 先輩芸人やお客さんには悪いが、罰ゲームの途中で抜け出し、俺たち三人は怪人のいる現場へ急いで向かった。

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