第六笑 今後の悪事方針

とあるマンションの一室に、《T-up》の四人が集まっていた。


「ここってチョー快適! 居心地の悪い自宅なんかより、よっぽど良いわ!」


「いつも冷蔵庫には飲み物や食材が用意してある。おおよそ必要な家電や日用品が揃っている。この様な場所を提供してくださったカルマ様には感謝してもしきれませんね」


 二列に向かい合わせで並べられた四つのソファに、阿月フレムとイーストウッドが隣同士で座りながら寛いでいた。


 その向かい側には王静(ワンジン)と蔵土寝子が座っており、何やら揉めていた。


「根暗子! その無駄にデカいビー玉を貸してくれ! お手玉をして反射神経を鍛えたい!」


「…………ダ、ダメ! わ、私の商売道具の水晶を、トレーニングに利用しようとしないで! 占わなくても水晶が割れる未来が見える……」


「残念だ! ならばこの竹串の束を手刀で切って実力の確認を……」


「――そ、それ筮竹! だ、誰かこの筋肉バカを止めて……!」


 王静のワンマンな振る舞いに、寝子は振り回されて困惑していた。


「相変わらずうるさくて相性の悪い二人ねぇ。ところでボスは? いっつもここには来ないけど、何で? 陰キャなのかしら?」


「カルマ様は豊富な物資提供をしてくださっているお方です。恐らくかなりの要人と見受けられます。おいそれと人前に姿を現すことが出来ないのでしょう」


「フン! なによ! 私より凄い感じを出しちゃってさ! 会合に遅刻した罰として、冷凍庫のアイスを食べ尽くしてやるわ!」


「よし! この紙の束をピンチ力だけで破って見せる!」


「タ、タロットを粗末に扱わないで~!」


「……ハァ。やれやれ。皆さん、自由過ぎますね」


 イーストウッドがチームのまとまりの無さに憂いていると、突然――壁に設置してある75インチのテレビが点き、顔をフードで隠した人物が映し出された。


「! これはこれはカルマ様。ご機嫌麗しゅう」


『やあ、イーストウッド。みんなも、ご苦労』


「やっと来たのね、ボス。ボスだけいっつも画面越しだけど、何で? 何か理由でもあるわけ? 仲間の私たちくらいには顔を見せてもいいでしょうに。この美少女の私がタダで顔を見せてるんだから!」


 フレムはソファに座りながらバケツアイスをほうばりつつ、カルマに対して悪態をつく。


『遅れて済まないね、フレム。こう見えて忙しい身なんだ。なかなか出歩けないし、私が下手に動くとこの場所を突き止められてしまう可能性がある』


「突き止めるって……。誰が?」


 フレムの質問にカルマは首を横に振る。


『それは言えない。この裏稼業の為に、表側と上手くやってると思ってくれ』


「むぅ……。分かったわよ」


 フレムは渋々納得し、アイスの続きを楽しむ。


「ならば! 正体を明かせないのも! ボスの表側の人間に微塵も俺たちの事を悟らせない様にするためか!」


『察しが良くて助かるが、王静……。もう少し声のボリュームを下げてくれ。寝子も怖がって耳を塞いでいる』


 急な大声での王静の問いに、隣の席の寝子はソファの上で蹲り、ガタガタと震えていた。


「…………うう。本当にうるさい。声帯にまで筋肉が付いてるの?」


「ハハハハハハハ! これは失敬! ところで声ってどうやって小さくするんだ? 誰か教えてくれ!」


『…………まぁいい。本題に入ろう。これからの我々の活動だが……』


「フフ。各タレント事務所やテレビ局を襲いになるので?」


 イーストウッドは自身の発言を想像して、武者震いをする。


『いや、まずは失笑力に慣れることから始めたい』


「「「「――っ!」」」」


「何を悠長なことを! 我々の目的をお忘れか?」


「そうよ! テレビ局の奴ら、私は絶対に許さない! 根絶やしにしてやるんだから!」


「ボスよ! 俺は俺のプライドを傷付けた連中を破壊したくて堪らないのだ! 止めても無駄だぞ!」


「…………復讐、したい!」


 非難轟々の四人に対し、カルマは落ち着いた口調で話し始める。


『お前たちの気持ちは痛いほど分かる。しかし、下手に動いてもバクショウジャーに返り討ちに遭うだけだ。正直、今の私たち個々の力は首領・ズベーリに劣る』


「じ、じゃあ、私たちも一斉に戦えばいいじゃない!」


 フレムの提案に、カルマはまたしても首を横に振る。


『それは現実的ではない。強力な失笑力を手に入れても、王静以外は戦闘とは程遠い生活をしていたんだ。戦いにおいてはあちら側に一日の長があるだろう』


「ぐっ……」


 カルマの冷静な分析力に、フレムは悔しそうに唇を嚙む。


「では、どうするのです?」


 イーストウッドの問いかけに、カルマは口の端を吊り上げた。


『これを見てくれ』


「「「「なっ!」」」」


 イーストウッド一同はカルマの映るテレビに釘付けになった。

 何故なら――


『スベスベー!』


 全身黒タイツの奇妙な動きをした不審者が映り込んできたからだある。


「な、何ですか? その生き物は? 不気味過ぎます!」


「ちょっと、大丈夫なの? マジキモなんですけど、それ!」


「うむむむ! なんて面妖な化け物だ! ぶん殴ってやりたくなる!」


「…………気持ち悪い」


『ス、スベべ~(ガックシ)』


『ふふふ。皆から罵倒されて落ち込んでいるのはス―ベッター。……過去に何度もバクショウジャーと戦いをしてきた失笑団の戦闘員だよ。失笑力の紫煙から作り出してみたんだ。まだ一体だけだが、成功したよ』


「す、すでにそこまで失笑力を使いこなされたわけですか?」


「凄いとは思うけど、所詮ザコでしょ? 役に立つのかしら?」


「しかし! 失笑力の利用方法については流石と云うべきか! 是非! ご教授願いたい!」


「…………うん。し、失笑力について……お、教えてほしい」


 四人が思い思いに発言し、カルマの話に興味を示す。


『皆、焦ることはない。失笑力に覚醒したのはここ二週間の話なんだ。しかし、コツさえ掴めればここまで出来るようになる。確実に強くなれる』


 カルマの話に、四人は聞き入っていた。


『失笑力を我が物とすれば、恐れるものなんて何もない。むしろ恐れられる側になれるだろう。負の感情によって無限に強くなれる、この力なら……』


 カルマの力強い言葉に、四人はより一層、復讐の炎を滾らせるのであった。

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