第五笑 決起集会なんだよね?
――夜。
仕事や旅行先から帰ってきていた仲間たちが、バクショウジャーの本拠地(無梨さんの借りた部屋)に一堂に会していた。
俺と突夫は昼間の出来事、《T-up》について皆に話し、それぞれの意見を委ねた。
「そ、そんな事ガ……!」
蒼太は愕然とする。
「なんて事だ……」
茶羽博士はその場でうなだれる。
「ウチらの頑張りは、無意味やったんかな……」
桃瀬はどこか、寂しそうだ。
「(ブー!)」
無梨さんは屁をこいた。
「「「まさか――」」」
「「「「まさか『笑いのツボ』が肛門の中には無かっただなんて! (ブッブー!)」」」」」
「そうなのだ。至極残念だ」
「「今そこはどうでもいいわ!」」
俺たちの活動報告は、クロの里帰りの話しに負けたようだ。
「父に仲間の肛門に鍼を刺したらパワーアップしたから『笑いのツボ』は肛門にあると話したら、『そんな訳あるか』と、ビンタされてしまった。うーむ、謎は深まるばかりだ」
「お前の親父さんがまともで良かったよ。俺は鍼、刺され損だけどな……」
「『笑いのツボ』の話は置いといて、今は《T-up》について――」
「《T-up》! リアップ! チャップアップ! 無梨さんは毛が無いぷぷぷのプー!」
「(ブブブブー!)」
「こらこらブルっち。無梨さんのハゲをあんまイジるんやないで? 無梨さん、めっちゃご機嫌ナナメな屁をこいとるやないか」
「攻増よ。今度、一緒に実家のほうへ遊びに来てくれぬか? 父に我の研究の成果を分かってもらいたいのだ!」
「お前の家族が見ている前で俺の肛門に鍼を刺す気だろ! 絶対にお前と一緒に国際線には乗らねぇからな! それに首領・ズベーリの戦いの時は普通に笑力を分けてくれれば良かったんだよ! 二度とテメェの憶測で勝手に鍼を刺すんじゃねぇぞ!」
「職場の鍼灸院で鍼を刺した芸人は皆、飛び跳ね上がって動いていたのだがなぁ……」
「その芸人たちはトイレの度に激痛で泣いてるだろうよ。経験者の俺が言うんだから間違いない」
「……もう。話が進まないよ……」
各々が勝手に喋ってしまい、本題に入れない為、突夫は頭を抱えていた。
「ふむ……。その《T-up》のメンバーの中にイーストウッドというマジシャンの男がいたんだね?」
「! 茶羽博士、何か知ってるんですか?」
さすがは年長者。話を聞いてくれていると思い、突夫は目を輝かせる。
「ほんの少し前に、知り合いの構成作家が深夜のバラエティー番組で出演者を募集していたんだよ。芸人に限らず、何か一芸に秀でた者を探していて、オーディションを開いたんだと……」
「その中に、イーストウッドが……?」
茶羽博士は頷く。
「一人のマジシャンの男が意気揚々とマジックを披露した。その構成作家は悪くないなと思っていたらしいのだが、一緒にオーディション会場に居た番組のプロデューサーが『面白くない』『今時、鳩を帽子から出したり、引いたトランプの数字を当てたりするのは地味すぎる』と、こき下ろしたそうだ」
「ううっ。ひ、酷い。自分がその立場だったら、立ち直れないかも……」
突夫はその状況を想像し、身震いした。
「その後、二人は凄く言い争いをして、マジシャンの男はオーディション会場から飛び出して行った。どんな者か気になって聞いた名がそのフォレトス・イーストウッドだったと記憶している」
「……そんな事があったんですね」
芸能界の根絶を掲げた五人のうちの一人について、少し知ることが出来た。
もしかしたら他の四人も何か芸能関係者に不快な思いをさせられて、暴挙に出ようとしているのではと、突夫は考えていた。
「また、その構成作家に会ったら詳しい情報がないか聞いてみるよ。二人でご苦労だったね。まずは無事で何よりだ」
「ありがとうございます。……ねえ、みんな聞いた? 彼らの職業から何か芸能関係者との繋がりを探し出して、原因を探ればもしかしたら和解の道が――」
「(ブブッブー! ブーブブ! ブッブッブ―! プッピ! プッブッピプー!)」
「やりますね、無梨さン! 意味は分からないけど、韻を踏んでいるのはソウルで感じ取れましたヨ! これは負けられなイ! YO! YO! 兄弟で行った旅行先は温泉! それ必要? だって屁コキのアンタが風呂入ればすぐに硫黄温泉! クサいよう! まるでクサ津温泉、硫黄の宿! 宿泊したならゲロ on sale!」
「ええぞ~二人とも! バイブスアゲアゲ、トンカツ揚げたてやで!」
「我、またコンビを解散する事になったのだ……。攻増よ、一緒に組まぬか?」
「だから嫌だって! ヒーロー業で鍼を刺されて、漫才中でも鍼でツッコまれてたんじゃ心と体が持たないだろ!」
「そんな心身ともに疲労している時こそ、鍼治療だ!」
「逃げ場ねぇのかよ! いい加減にしてくれ、先端恐怖症になるわ!」
「…………こいつらとじゃ、ダメかもしれない…………」
メンバーのまとまりの悪さに打ちひしがれる突夫に、茶羽博士は背中をさすって励ます事しかできなかった。
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