第三笑 その後のケツ末
「痛い。痛いよ~」
「もう・・・・・・。お尻が痛いのは分かったって。桃切ったから食べる?」
「お尻が痛い俺に桃って・・・・・・! 食べるけどさ・・・・・・」
俺はあれから二週間の入院を経て、無梨さんの用意してくれたマンションの部屋に滞在している。ここは日常で使う家電や家具が全て揃っているから快適この上ない。
包帯を尻にグルグル巻きの状態では日常生活に制限があるとして、負傷の原因となった仲間達がしばらくの間、交代で俺の面倒を見ることになったのだ。
今は突夫が俺の世話をしてくれている。その突夫が切ってくれた桃をソファーにうつ伏せになりながら食べる。
失笑団の怪人は出なくなったが、またいつ失笑力に目覚めて悪用する奴が現れるかもしれないから油断は出来ないと博士に言われた。
そんな博士は今、久しぶりの兄弟水いらずという事で、無梨さんと温泉旅行へ。
蒼太は配信番組のラップバトルの仕事で奮闘中。
桃瀬は今日オープンする特大メンチカツ専門店のPR活動の仕事に行っている。
クロは『笑いのツボ』を我が家に伝えに行くと言って、帰国をしていた。
「おっ! また橙里ちゃんが出てる! 録画、録画!」
「例の配信から『奇跡のアイドル』なんて呼ばれて、彼女は大忙しだね。テレビを点けたら絶対に映ってるもん」
橙里ちゃんは今や時の人となり、歌番組は勿論、バラエティやドキュメントといった多種多様な現場で活躍していた。
「クソ! あの配信の一番近くに居たのは俺だってファンの間で自慢したい! 会話もめちゃくちゃしたって事でマウントも取りたい!」
「バクショウジャーの姿だったから誰も信じてもらえないだろうね。当然だけど、自ら正体をバラすのはルール違反だからね?」
「チッ! 分かってるよ、そんなこと・・・・・・。でも、いいんだ! 俺にはこれがある!」
俺はズボンのポケットからスマホを取り出して、ある画面を突夫に見せた。
「じゃーん! 来月に開催される橙里ちゃんのライブチケット! ネットの抽選で落選したハズなのに何故か送られてきたんだ! 運営に問い合わせても『大丈夫です。足元に気を付けて、是非お越しください』だってさ。悪い事の後には必ず良い事があるんだな! どうだ? 羨ましいだろ?」
「・・・・・・・・・・・・うん。良かったね。今回、攻増は頑張ったもん。誰かからのご褒美かもね」
「へへへ。お尻を破壊された甲斐があったぜ」
「・・・・・・・・・・・・ちょっとトイレに行ってくる」
そう言うと突夫はリビングを出て、俺の視界から消えた。
俺はずっとスマホ画面の『鬼美橙里 プレミアライブ』の文字にニヤけ面が止まらなかった。
『お願いを聞いてくれてありがとう。友達が凄く喜んでいたよ。また、連絡します』
『突夫。いい加減、家に戻ってきてくれないか? 心配でしょうがないよ。もう無理に事業を継げとは言わない。だから戻っておいで? 今、どうやって食べているんだ? 仕事はしているのか? 連絡ももっと頻繁にしてほしい』
突夫は壁に寄りかかり、自分のスマホ画面を見ていた。
そこには久しぶりに連絡を取った自分の父とのメールのやり取りが映っていた。
「ごめんね、パパ・・・・・・。でも、心配性なあなたに芸人をしているなんて言ったら、絶対に反対するだろうからまだ言えないや・・・・・・」
突夫は一人静かに呟くと、アイドル事務所のジョーヌ・ジャッロ代表である父との連絡を強制的に終了した。
「あっ! 《笑力計測グラスィズ》に失笑力の反応あり! 攻増、出動するよ!」
「え~。俺、負傷者だし、橙里ちゃんのライブまで新たに怪我したくないから今回はパスで!」
「クロに攻増が元気になる様に、また『笑いのツボ』を刺して欲しいって連絡するね」
「待て待て待て! 分かったよ! 行くよ! あんなのまたされたら今度こそ死んじまう!」
突夫の脅しに負け、嫌々ながら出動の準備をする。
「まあ、平和と人々の笑顔の為に、頑張りますかね」
小さくひとりごち、突夫と共に今日もバクショウジャーとして活動するのであった。
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