第5話 すすわたり
「すすわたりだな、大丈夫や。奴らは我々に害はない。むしろこの家が前の家主に愛されていた証拠ってことだ。悪い妖怪はここに住み着いていない」
「え?すすわたりってあの『ト○ロ』のまっくろくろすけ?」
「と、とろ?そんなもん知らんが、まあきっとせやろな」
すすわたりの妖力は微弱だが、他の妖怪を寄せ付けない嫌な妖気がある。そのために他の妖怪が寄らない。ただ河童のような大妖怪に関しては嫌な感覚はあるものの多少耐えられる。すすわたりは人間を妖怪から守ってくれる実質守護霊のような存在である。
「まあ、わいがここに来たからすすわたりどもが引っ越しの準備してやがる。」
「ねえ、ここに滞せられないかな。住む場所を失うんでしょ?私たちは別に...」
「あ奴らは不幸な人間をよく好む。そして、その人間の不幸を餌とし、喰らい尽くす。ワイらは充分幸せみたいだそうだ。」
すすわたりの住む家には必ず不幸のカケラがある。しかし、その不幸は長い年月をかけてすすわたりがゆっくりと喰らい続ける。そして、その家に不幸がなくなったらすすわたりは旅立つ。別の不幸のカケラがある家を目指して。
「まあ、それならいいのかな...」
なんだか、結菜はどこか寂しそうだ。
「大丈夫や、ワイがおるだろ!」
「...うん、そだね!」
彼女は笑顔になった。でも、その笑顔が奥底から出てきたものなのかはわからない。
▪︎
彼女は父と一家団欒のひと時を過ごしている。コタローは彼女の父にもし見つかれば研究対象として捕縛される可能性が高いと考え、少し距離を置いている。
そのため、コタローは家の近くのちっちゃな小池に浸かり、自分だけの悦に浸る。久方ぶりの清らかなる水だった。色々と考え事をする。ここ数日、大変だった。いきなり発動した呪い、城守結菜という少女...
彼は20年前のことを思い出す。その時、患った恋の呪い。
「城守...お前らはワイを何度も何度も...」
ふと空を見上げると、風に全てを任せて飛ばされる黒い煤の点々、幸せになった家族のもとを去る彼らはまた別の家族のもとへ向かう。いったい彼らは次にどこに行くのか、誰も知らない。
「お前らみたいに、ワイも旅立てればよかったのかな...あの時、彼女と一緒に外の世界へ出ていればよかったのかな...」
コタローは星々が煌めく夜空に染まる黒々を見つめて。
▪︎
朱鳥村はずれの森林の中にて。
「やばい、迷った」
一人の青年がいた。和装束を着た彼は途方に暮れていた。
「ひいぃ...暗いな〜」
彼は方向音痴だった。星明かりを辿るも、なかなか彼の目指す村に辿り着かない。妖怪と共生していたとされる村、朱鳥村。この地域は私が所属する陰陽師連盟の管轄外だが、近年この村付近で妖怪による被害が相次いだため、彼は調査として出かけたのだ。
道に迷って、辿り着いてないが。
ふと夜空を見上げる。黒い点々が無数にあるのを見かける。
「あれは...すすわたりか...」
彼は陰陽道の才能を格段と持つ者。何やら呪文を唱える。
餓狼術、花道抜刀
無数の札の陣より、狼の式神を出して、無数の黒き物体を噛み払う。
「妖怪善なし、妖怪は悪なり」
すすわたりは跡形もなく、微弱な妖力が消え失せた。すすわたりの一生は少しの強大な妖力により消えてしまうほど、か弱い妖怪なのである。
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