登場!主要キャラクター!

 グリムに関してのおさらいも終わり、ひたすら入学式のプログラムを退屈に聞き流している。いくらこの学院がある地区の代表者やPTA代わりの保護者組織のトップに楽しい学院生活を、なんて言われてもそれはアイルやスクールカースト下位者は含まれていないのだから聞いても意味がない。

 楽しい生活なんてマジョリティの勝者や主人公とそれに近いキャラクターたちにしか与えられることのない特権だ。


「ねえ見てあの子、また男子と同じ制服じゃん」

「好きなもの合わないし話しづらいんだよね」

「最初は話してたんだけど、同じもの好きな子と話してた方が楽しいし~」


 ふと前世の記憶が想起される。

 もとより特権を持っていた子や後から特権を手に入れて切り捨てるようにあったのかわからない友情をぽいと投げる子。


(グリムも特権持ちだ。…相互さんじゃないけど、たぶん私は背中を押すだけでいつの間にか前世の時みたいに)


 なんとなくグリムと交流がなくなるまでの流れが見えた。彼は主人公やキャラクターたちの力もあって強くなり、私は悪名がうなぎ上り。彼との交流は一年もないだろう。

 交流ができなくなったときは心の中でグリムを応援しよう。陰の者は義理堅いのだから。脳内閣議は採択された。


「続いて学院長代理として一年の学年主任、シィラ・ミリティエからお話があります」


 ゲームで何度も聞いたことのある名前が聞こえ、視線を壇上に向けた。そこには深い藍色の髪に専用武器の青いストールを首に巻き付けた教師キャラクター、そしてアイルを学院にスカウトした張本人。


(『始まりの蒼眼、笑顔の学年主任』シィラ・ミリティエ…!)


 シィラ・ミリティエ。一年Aクラスの担任であり学年主任を兼任している。常に笑顔を絶やさず、のんびりとした雰囲気と話しかけやすさから生徒たちの信頼が厚い。魔法の能力も教師内でトップクラスの実力を持ち、メインストーリーでは主人公の特訓に手を貸すシーンがある。


『得意魔法は水属性。シィラが付けているストールは彼自身の魔力で作られたものであるため、たいていの魔法はストールを使って発動、放射される。取得する水属性の魔法が強い分、火属性の魔法が弱点になっている。』


 このConnect to Wizardsの戦闘システムにおいて、光と闇以外で有利不利といった属性相性は存在しない。だがシィラのみはメリットが大きい分のデメリットとして不利属性が設けられている。水のくせして火に弱いとは何事だ。と言いたくなるだろうが、運営が絶対だ。しかも設定でも彼の苦手なものに炎と記載されていた。

 きっとそれゆえなのだろう。


「新入生の皆さん、初めまして。一年の学年主任を務めるシィラ・ミリティエです。皆さんの入学、心よりお待ちしていました。長話はみんな聞いてくれないと思うので、簡潔に話します。今年は去年に引き続き将来有望な生徒がかなり入学してくれました。生徒会の統治のもと、この学院生活を楽しんでいきましょう〜」


 以上でーす。シィラはストーリー通り緩い挨拶をして話を終わりにした。しかもニコニコ笑顔で話すのだから、会場の空気が炭酸ドリンクのキャップを開けたときみたいに張りつめていたものが抜けていく。ゲーム通りとはいえ締まらない。

 これでいいのか学年主任、そう思う。…次が次だから余計に。


「続いて、新入生代表イザーナ・メルエル」


 ついに来た。このゲームにおいて中心に立ち悪役アイルと対になる存在。

 主人公、イザーナ・メルエル。

 七星属性の中で最も希少で、唯一闇属性に有利攻撃が可能な光属性を扱える類い稀なる才能の持ち主。決して裕福でも貧乏でもないごくごく普通の家庭で育った彼女は生まれつき光属性が使え、ケガした子猫を治したところを学院長が発見。そしてスカウトされて特待生として入学する。

 そのこともあってグルーシャからライバル視されたり、生徒会からスカウトもされる。いろいろな事件(プレイヤーからしたらイベント)にも巻き込まれていく。


(なんだろ、アニメで見てた時はかわいい~なんて思っていたはずなのに)


 薄めの茶色の髪に光るように輝く黄色の瞳、一生懸命に代表の文章を読んでいる主人公が今は将来の死を告げる死神にしか見えない。光属性に対して死神とか縁起が悪いのは重々承知だが今の私にはそう見える。

 初めての接触は嫌でも近づいているというのに。そのイベントさえ逃げたい気持ちがすでに湧き始めていた。


「以上、新入生代表イザーナ・メルエル」


 私がオーラに怯えていたのも束の間、話が終わり拍手の音がホールをうめる。便乗して拍手をしていると、一瞬だけ主人公と目が合ったような気がした。


(主人公が私のことを知るのは実力調査試験のはずだし、そんなピンポイントでこちらを観れるとも思えない…気のせいか)


 それに生徒たちがざわざわとしだしているから辺りを見ていたのかもしれない。確かに次はあのキャラクターの登場。生徒たちがざわめきだすのも当然であった。


「最後に、在校生代表」


 司会の言葉と共にホールの明かりが落とされる。そして壇上のみ明かりが灯される。

 そこにはブロンドの髪に蒼眼を光らせるキャラクターが一人。


「新入生たちよ、まずは入学おめでとう。私は生徒会会長」


 ヒース・ハイゼンだ。そう彼は高らかに名乗った。


(来た!ファンたちが選ぶ名シーンの一つ!)


 三周年公式記念配信で行われた名シーンアンケートにて第二位を獲得したシーン、それがこの人気キャラクター、ヒース・ハイゼンによる在校生代表の話である。ヒースというキャラクターの魅力を存分に見せながら、一気にゲームの世界観へといざなわれるとファンたちからは大絶賛の場面だ。この場面を書いた公式シナリオライターさんは天才、そう言われるほどに。


『野心秘めたる未来の統治者』ヒース・ハイゼン。

 この王国第四皇子でありこの学院の生徒会会長を務める三年生。グリムの知り合いも、何を隠そうこのヒースである。恐るべき統治能力と魔法の技術力で二年生で会長まで登りついた彼は生徒たちからの支持を強く集めており、そのカリスマ性に魅力を感じたファンは多い。

 しかし覚醒素材や推奨武器はどれもレア度の高いものであったため、イベント限定も含めキャラクター最高難易度と恐れられていた。しかし頑張るだけあって能力値は高い。


『得意なのは火属性。ほかの属性もある程度強力な魔法スキルをゲットできるから、サポート一覧にこの人居たら選ぶことをオススメ。というかもうこのキャラ一択。時おり特殊ボイスが出てくるがそれがお茶目なのでぜひ使う際は音声が聞こえる環境で遊ぼう』


 睡眠時間を削ってまでヒースを育成した玄人相互さんはそう教えてくれた。同時にこの人の育成を乗り越えた猛者は他キャラの育成を苦に感じなくなると。


(…と。もうそろそろ戦闘チュートリアルか)


 会長の楽しい話が進んでいるが、ここで王家アンチによる乱入が起こる。その際プレイヤーは、会長と実はその壇上隅で控えている副会長と書記の二人を使って戦闘のチュートリアルを行う。

 ゲームでは主人公も入り四人の編成で行われ、アニメでは尺の都合で会長と書記の二人だけで対処していたが…。現実となった今はどのように乱入者たちが対処されるのか。

 少し楽しみである。


「きゃー!!」


 甲高い悲鳴のあと、魔力でできた銃弾「魔導弾」が会長に向かって放たれた。恐怖が感染していく中、壇上から動かない会長は「はあ」とため息をつく。まるで襲撃されることに慣れている様子。全く、と小さく呟いたあと彼はパチンと指を鳴らした。


「氷壁」


 壇上の隅から氷の壁が現れ会長に向かっていた魔導弾がはじかれる。すぐに氷の壁は砕け、宙に舞う氷の粒たちの奥で無傷の会長は笑っていた。


「それだけか?」

「おい会長、むやみに煽るな」


 こっちの仕事が増えるだろう。氷の魔導弾を襲撃者に放ちながら書記シュヴァルツ・イーランドは会長の隣に立つ。

 魔導弾の威力は乱入者よりも圧倒的に強く、撃たれた襲撃者たちはみるみる氷漬けにされていった。何とか避けてホールから逃げようとする一人は突如現れた蔦が体に巻き付き、無事に捕獲された。


(あれ、副会長が姿見せてない)


 アニメに限りなく近い展開ではあるが最後の魔法は副会長によるもの。辺りを見回しても姿は見えない。ゲームでは書記と一緒に登場していたのに。完全に姿を見せないというのはどうしてなのだろう。


(…とはいえこれで入学式は終わりか)


 教師たちによって誘導が行われ徐々にホールから人が出ていく。より問題を大きくさせないためにホールの端で最後尾を待っていると、思わぬ相手に捕まった。


「他と違って慌てないのだな。ラクリマの血を受け継ぐもの」

「せ、生徒会長様…」


 ヒース・ハイゼン。狙われていたはずの彼はどこか楽しそうに目の前に立った。

 それに伴いスタイル抜群、高身長な会長の顔を見上げる。コラボカフェにあった等身大パネルとは違いやはり圧のような、カリスマ的オーラを感じ警戒度が上がった。


「そんなに怖がらなくてもいいぞ。取って食うわけではない」

「だとして…要件は」

「特にはないぞ?」


 その冷静さが気になっただけだからな。にやりと笑う会長に、それだけのためにそんなオーラを出すなと物申したかったが…ぐっと飲みこむ。

 相手は第四皇子、無礼と思われた瞬間に首が飛びかねない。


「…まあ、あれくらいなら」


 アイルが倒される場面ならまだしも、アニメでもコミカライズでもゲームでも見てきたこの展開で慌てる必要はないだろう。むしろこれから様々なことが起きるというのだから、こんなチュートリアルで慌ててなんかいられない。


(それに北の大地で学んだのだ、冷静な判断ができなくなった時が命取りだと)


「そうか。教えてくれてありがとう」


 キミも教室に戻るといい。そう言って会長は壇上に集まる生徒会の面々の元へ戻っていった。

 とりあえず、無事に対応ができていたのだろうか?首も飛んでないし。


「教室、戻るか」


 気配遮断をしておそるおそる教室に戻ると、すでにHRが終了して解散したのか担任のシィラと副担任フィジ、そしてなぜかシアンの三人が話していた。しかも担任の手にはアイル用と書かれた茶封筒。あれが配布資料なのだろう。

 今日はもうキャラクターとの交流を控えたい私は教室の扉から様子をうかがい、シアンが去るのを待った。


「あ〜アイルやっと来た!そんな扉の前で覗き見してないでこっち来なー」


 そしてすぐにばれた。

 自分の気配消しだとシィラほどの魔導師には効かないらしい。


「遅くなり申し訳ありません」

「大丈夫だよ。それにしても良い気配遮断だね。クロック先生に習ったらもっと上手くなりそう」


 フィジの発言に探せなくなるからやめてねー?とシィラは言いながら僕は目的の茶封筒を貰った。これでやっと帰れる。


「あの」


 ダメだった。まだ帰れないらしい。

 話しかけてきたシアンの方を向く。…陰の者特性で目を合わせられずに視線を斜め下に向けているけど。


「来るまでアイルの話してたんだよ。だからシアンも気になってるんでしょ?」

「いや、違います」

「フィジ並みに冷たい…」

「いつもじゃないだろ」


 三人のやり取りを聞いていると、シアンは咳払いをして改めてこちらに向きなおした。


「ラクリマさん。明日からの実力測定試験で、俺とトウリャンさんと勝負してください」

「え…」


 実力測定試験、新入生が受ける言葉の通り現在の実力を測定するイベントだ。

 前世であったスポーツテストみたく、魔力保持量から操作性、持続性、魔法陣の展開速度など各種目の成績を点数化させる。その点数は中間試験の成績と共に6月からの習熟度クラスに反映される。

 また、希望制の模擬戦も行われるためこの試験全体がある種のお祭り行事っぽい。上級生や他の教師たち、なんなら外部の偉い人たちも見物に来るとシナリオでノエルが言ってた。

 主人公は同じクラスのグルーシャとノエルの二人とさっそく勝負をして、ある種目時にアイルと初の接触が発生する。


(…まさかこっちはこっちで勝負していたとは)


 主人公とだけ戦えばいいと個人的に思うのだが、今日だけでシナリオに違う事が何点かあった後である。変に断って問題が発生するほうが怖い。


「わかりました。いいですよ」

「ありがとうございます」


シアンは抑揚のない声で感謝を告げた。


「周りの目もあるし、アイルがキツイと思った時は勝負は別の機会にするように…んね?」

「おお、シィラが先生してる」


そりゃねもちろんと返しているがどこか緩さが残ってて締まらない。


「よろしくお願いします。ラクリマさん」

「こちらこそ。よろしくお願いします」

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