第5話 美奈と聖歌と、……の凄さ

 聖歌と美奈は生まれた時から一緒だった。

 たまたま二人の両親が知り合い同士だった。

 たまたま同じ日に子供が生まれることになった。

 必然と物心ついた時に、二人は仲良くなっていた。

 好奇心旺盛な美奈と消極的な聖歌。美奈以外に友だちがいなかった聖歌は美奈にべったりだった。

 しかし、姉のきらりの影響で美奈は野球を始め出す。運動神経の高い美奈はすぐに上級生に交じって、練習に参加するようになる。美奈と離れたくない聖歌も一緒になって練習するが、上達度合いに雲泥の差があった。

「聖歌ちゃんには私が教えてあげるよ」

「いいの。聖歌はきらりちゃんには教えてもらいたくないの!」

 みんなが良く言うきらりのことを聖歌だけは嫌っていた。確かに、野球をしている美奈はかっこいい。美奈の一番近くいた自分から見ても、野球をしている時の美奈は一番イキイキしている。

 家族よりも長く一緒にいたと自負している。だからこそ、自分の美奈を取られたような気になった。

 美奈にお人形遊びやおままごとが似合わないことは知っている。けれど、あそこまで野球にのめりこんでしまうとも思っていなかった。

 だったら自分はどうすればいい。

 親と同じように応援する立場に回るのは嫌だった。

 結果は美奈と一緒にいたいからこそ、美奈と離れて、一人で練習する時間が増えた。

 美奈がピッチャーを志望するというのなら、自分はキャッチャーしかない。聖歌はどうすれば、美奈とバッテリーを組めるのかを考えた。他の選手のことは正直どうだっていい。聖歌は美奈しか見えていなかった。

 美奈に置いて行かれないようにするためだけでもこっちは必死だった。ずっと美奈と一緒にいるために、今は少しの間、美奈断ちをしないといけない。

 聖歌の頑張りもあって、美奈とバッテリーを組むことができた。また美奈と一緒にいれると喜んでいるのもつかのま、二人の今後を変える、大きな事件が起こった。

 そう、きらりが高校野球の規則を変えたのだ。

 大喜びの美奈の横で、聖歌は呆然としていたのを覚えている。

 正直、聖歌は安心していた。今は野球に熱中しているがずっとできるわけがない。続けたとしても、女の子同士であるならば、自分はずっと美奈のパートナーでいられると思った。

 それなのに。

 あの人はまた美奈を奪おうとしてきた。

 いや、わかってはいる。美奈には野球をする才能がある。それは聖歌なんかとは比べようもなく、きらりよりもまぶしい才能が。

 わかっている。美奈は聖歌一人が独占していい人じゃない。いつかは美奈の隣に立てなくなくなる日がくることも。

「ねぇ、聖ちゃん。私たちもあの場所に行こうね!」

 美奈はきらりが甲子園出場を決めた時に無邪気に言ってくる。

「当たり前なの」

「じゃぁ、約束だよ」

「約束なの」

 二人は小指を絡めて、『指切りげんまん、うそついたらはりせんぼ~んの~ます』と言った。

 その日から聖歌の心持ちは変わった。

 美奈が一緒に行こうと言ってくれたんだ。せめて、学生時代は美奈の隣にいようと聖歌は誓う。美奈の相棒は自分でないといけないと、有無を言わせぬ実力をつけようと美奈と一緒に努力した。

 橘美奈と西野聖歌。きらりのおかげでさして珍しくもなくなった女の子バッテリーは一部の間で注目の的だった。

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