幕間

「あいつが打線の核なんでしょ。力の入り具合も違うって」

 花火はベンチに戻ると意気揚々と軽口を叩く。

「いくらすごいって言っても中学レベルだよね。さぁさぁ、あとは橘を打ち崩してコールドにするよ。まだまだ今年の仙水の評価って低いからさ、この夏の大本命ってことをここのお客さんにわからせてあげないとね」

 花火の言葉を窘めるものはいない。

 油断をするなと言ってもよさそうなものだが、花火が一番気を引き締めていることを部員は知っている。ただ、その中で彦根だけがなにか言いたそうにしていた。

 中学時代の同期たちは名門に進み、一年生ながら主力を張っている。彦根も、そしてレベルは一段下がるチームではあるが塁もそう。この夏の甲子園は自分たちの世代が活躍すると断言できるのだが、その筆頭格を低く見られるのはどこか嫌だった。

 結果が出ていないのでどういわれるのも仕方がないと思うが、同じチームにいれば「お前、ちゃんとしろよ」と言っていただろう。

 お前の力はこんなもんじゃない。お前が上に立っていることで俺たちも頑張れるんだ。

 敵チームにいながら、相手チームのことを心配してしまう。

 彦根は観客と同じようにこのまま一方的に終わらないことを期待してしまう。

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