幕間
「俺、神英で野球するわ」
チームメートで作ったグループラインに半年ぶりのトークが入る。
部内の連絡用に作られたグループなので引退してからは当然使われていない。ただ、誰も退会しようとはしなかった。
そこに呟かれた言葉。
それを見たチームメートたちはすぐに「やっぱりか。がんばれよ」「その報告聞けてよかったよ」「対戦しよう」など好意的なメッセージを返す。
その中で彦根だけはなにを返していいかわからなかった。
たった一言打つだけでいい。ただ、あの時の塁を一番近くで見ていた彦根にとって、気軽に頑張ろうなとは言えなかった。
「なら、俺も辞める」
塁がみんなの前で宣言したあと、彦根も続いた。
彦根にとって、塁は同い年でありながらも憧れの存在であった。小学校の頃から同じチームでバッテリーを組み、そのボールを受けられることに、塁の前の打順を打つことが誇らしかった。
塁が肩を壊して投手を諦めなければならなかった時、残念ではあったが、同じチームで野球を続ける決断をしてくれただけでも嬉しかった。
なのに。
大人たちは理不尽に塁を傷つけた。
それで決断したのだったら。
「お前は続けてくれ」
ただ、塁に頭を下げられたら彦根は断れない。
塁と同じチームで野球を続けたい、お前も続けろよと喉まで出かかったが、相手の表情を見るといえなかった。
「わかったよ」
彦根は頷くしかなかった。
その後、行きたい高校はなかったが、唯一、塁ほどではないにしろ、批判に真正面から立ち向かう投手がいるチームに、進学を決めた。
塁が野球を始めると知って、すぐにグラウンドで会える機会はあると思ったが、まさか、公式戦の初戦で実現するとは。
野球に神様がいるとすればエンターテイナーが過ぎる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます