幕間

 一回戦の対戦相手が伝えられると、仙水高校の部室の温度が五℃は下がったような気がした。

「なんでそんなとこ当ててくるの?」

 一人の女の子が冷めた声音で主将に詰め寄る。

「………」

 主将はなにも答えない。

 こうなったエースはもう機嫌が治らないので、放っておくのが吉だ。

「花火は一番目立ちたいの。夏の初戦、センバツ出場の仙水のエース、神代花火がどういうピッチングをするかっていうのは絶対に注目されるのに、よりにもよって、橘美奈のいる神英なんか引いたら、花火に集まるはずだった注目度も半分になるじゃん」

「いや、神英だったら注目度倍増じゃね」

 一人の要らぬ発言によって、花火の口調はさらに険しくなる。

「あのね。花火は花火だけが注目してもらいたいの。そこに相手はいらないの。神代花火の仙水が橘美奈のいる神英に勝ちましたじゃなく、神代花火の仙水が勝ちました、甲子園に出場しますでいいの。わかる?」

「けど、決まったもんはもうどうしようもなくね」

「言っとくけど、初戦なんて、どこでも一緒だから! 花火が抑えて仙水が勝つっていうのは当然だから。橘美奈がどれだけかは知らないけどさ、二、三点は取ってくれるんでしょ? だったら勝ちじゃん」

 こうなってはもう止まらない。

「絶対女子ナンバーワン決定戦とか言われるじゃん。なにそれ、花火はそんな低レベルな争い興味ないの。あくまで花火が目指すのは世界一のピッチャー。女子や県や日本の中で争うレベルじゃないし、花火が自分のピッチングすれば負けるはずないし」

 女王は強気な姿勢を崩さず、チームメートはその絶対的な自信に「さすがだな」と笑みが零れる。

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