第2話 夏に向けて

 久々の感触だった。忘れかけていた、それでいて、求めてやまなかった感触。

 あの場でずっとバットを振りたかった。今のスイングを自分の身体に染み込ませたかった。

 家に帰ると押入れの中に押し込んだバットを引っ張り出す。もう使うことはないと決めたはずが、それでも捨てなかったのは、記念か未練か。

 グリップを握り、今まではスイングの形、軌道、自分の感覚を大事に素振りをしていたが、今日はなにも考えず力いっぱいスイングした。もちろん、形などあったものではない。このスイングがいいのか悪いのかもわからない。怪我をした肘も痛む。

 それでも気持ちのいい汗をかいた。

 その中で自分がどうしたいのか考える。

 自分が野球を続けてはいけないと思っていた。けれど、久しぶりに面と向かって野球をやれと言われた。もう自分のピークは終わったと思っていたが、また戻れる可能性が示された。ならば、そこに向かって努力をするべきではないか。

 中学時代のチームメートの言葉が頭をよぎる。

「お前のしたいようにしろよ。今は意固地になってるだけかもしんないからさ。ただ、俺たちはまた野球してほしいって思ってるからな」

 もう一度、頑張ってみるか。

 簡単に揺らいでしまった決意を自分の中に落とし込んで、高校生活の覚悟を決めた。

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