第1話 運命の出会い 2

「高松くんっていますか?」

 高校の入学式当日。簡単なオリエンテーションが終わり、午前中で帰宅しようとしたところに教室の入り口から声がかかった。

 入口にいた女生徒は首を傾げるだけで案内はできない。入学初日で顔と名前が一致しないのだから仕方ないだろう。

 タイミングよく声の聞こえる場所にいたのか、「俺が高松だけど、なにか用?」と声をかけてきた女の子に近寄った。

「私のこと、知ってる?」

 女の子は男の顔を見つめて言った。

 髪は肩にかかるほどのセミロング。身長は女の子にしては高く170cmは超えていた。スポーツをしているのか、どこか筋肉質も均整の取れたプロポーション。切れ長の目元が威圧感を与えそうだが、十分に整っているといっても差し支えない。印象に残りそうな美人だが、記憶はなかった。

「橘美奈って知らない? 天才の高松塁だと覚えてないか」

 美奈と名乗る少女は挑発するように聞いてくる。塁と言われた少年はその名前と入学した高校名でピンときた。

「橘きらりの妹が俺になんの用だよ」

「なんの用って、高松塁に声をかけるなんて用はひとつしかないでしょ」

「俺は野球なんてやらないよ」

「なんでよ。あなた、高松塁なんでしょ?」

 美奈は期待していた答えと違い、語気が強まる。

「なにも知らないのか? 俺は中学で野球は辞めたんだよ」

「それは噂じゃないの?」

「ホントのことだ」

「それでもあなたは野球をするべきなんじゃないの? みんな、あなたに期待しているのよ」

 美奈の当然という口調に塁は「その期待とやらにうんざりしてるんだよ!」と、思わず声を荒げた。その声はまだ騒がしかった室内を沈黙させるには十分なもの。

「お前もここで野球するなら、その期待が嫌になるよ」

 塁はいたたまれなくなったのか、最後にボソッと呟いて足早に教室から出て行く。

 室内に取り残された美奈は呆気にとられ、塁を追うことはしなかった。

「だから難しいって言ったなの」

「聖ちゃん」

 美奈に声をかけたのは西野聖歌という小柄な少女だった。

「聖歌の聞いた話だと高松塁の意思はそうとう固いの。聖歌たちが誘ったくらいじゃ難しいなの」

「そうなんだ。まぁ、だからこそ家から近いこの学校にきたんだよね。そうじゃなきゃ、もっと実績のある強い高校に行くはずだもん」

「諦めないなの?」

「なんで? 高松塁でしょ? 私の次に野球をすべき逸材じゃん。その二人が同じ学校にいるなんてすごくない?」

「………」

「これは運命だよ」

 美奈は一人で盛り上がり、聖歌はなにも声をかけなかった。

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