第2話 可愛くない奴

パーティ会場は都内の高級ホテル。バイキング形式での食事。別フロアにはバーも用意されている。開始時刻は17時から22時。途中参加、退室は認められている。ドレスコードはスマートカジュアル。


私は大学1年生の7月に父が倒れて中退。およそ半年間バイト漬け。次の年の2月ごろに繊月様と出会い、2年間の修行。そして現在はぎりぎり二十歳である。カッコよくお酒を飲みたいお年頃なのだ。


今までに着たことのない質感の水色のワンピースを着て、コスメ系動画で学んだ技術であざとさのあるメイクをした。


リスナー(視聴者)からは「世間知らず」「田舎者」「マイペース」「幼い」などと評価されている。その汚名を返上すべく、「本当はぁ、すっごくぅ、大人なんだよぉ♡」みたいな小悪魔的な感じの印象を与えたい!ギャップは最高なはず!あわよくばイケメンな方と仲良くなって、コラボ動画とか出したい!!


2年前のスーパーで緑色のエプロンをして、枝分かれした髪を無理やりひとつに結び、度のきついメガネでレジ対応をしていた私からは想像できないであろう!一緒に働いてたおばちゃん達、私、元気にやってます!


そうして可愛い自分に見惚れて遅刻しそうになったが、タクシーを捕まえることができ、意図せず「カッコよく車からの登場」を演出することができた。



煌びやかな装飾に目を奪われ、きっと私の黒い眼球はゴールドの装飾品が写り、ゴールドアイになっているのだろうなと想像した。


「ねぇ、立ち止まらないでくれない?」

不意に後ろから若い男性の声がした。振り返ると自分とほぼ同じ背丈の少年が立っていた。高校生だろうか。私が呆気に取られている間にも彼は喋り続けた。

「あんたの名前、当ててやろうか。『如月ぽみ』だろ。世間知らずって言われてるからな。今のお前にそっくりだぜ。どうせこんなホテルには初めて来たんだろ。よくキャラ作りしてる奴がいるけど、あんたの場合はそのまんまだったんだな。」


VTuverとしての職業病だろうか。一人でもすごい喋ってるな。関心ものだわ。そしてことごとく貶されてるな、私。


このどう見ても高校生な彼もVTuverなのだろう。私も負けじと喋ってやろうではないか。

「ご名答。私の名前は『如月ぽみ』。そしてあなたは第5期生の同輩、『夜影カイ』ね。長髪を緩く結び、鋭く青色の目。着物を着て、まさに夜の陰に潜みながら、月光を羨ましく思っていそうな淡い表情が人気のライバーさん。確かに高校生っぽいと思っていたけど、本当に高校生とはね。でもここまで毒舌、長舌だとは予想してなかったな。」


夜影カイは黙り込んだ。少し悔しそうだな。というよりキャラが変わっていることを恥ずかしく思っているようだな。


「もう挨拶はいいだろ。さっさと中に入るぞ。お前だってこんなところで体力使うわけにはいかないだろ。」

そう言い捨ててカイはパーティー会場へ入って行った。


体力?もしかして、私がバイキングでたくさん食べる食欲の塊だと思っているのか?それとも、男性にたくさん話しかける欲望の塊だとでも思っているのか?失礼な奴め!



このときの私は知らなかった。「体力」

という意味は「体の力」ということを。

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