第1話 過去、そして始まり

今までの人生、誰からも注目を集めることはなかった。


小・中学校では図書委員会に所属。クラブや部活には入っていなかった。高校では部活入部が義務付けられていたから部員3人の天文部。実家はど田舎でキャベツ農家。大学は入っておけという父の言葉で地方の大学に入学。しかし、父が倒れ、母は一人では農業が成り立たず、破綻。大学の費用を払えなくなり、中退。奨学金や補助金を勧められたが、そこまでして大学に通う熱量は持ち合わせていなかった。


そこからバイト漬けの毎日で、友達は一人、恋人はゼロ。衣服は質素なワンピース二枚。ひっそりとアパートに住み、お金だけは溜まっていった。


何のために生きているのか分からなかった。


そんなことを思っていた時に出会った「推し」。見た目はカッコよくて、ホクロの位置が絶妙。なのに口から出てくる言葉は若さを感じさせる少し稚拙な表現。ゲームに熱中すると必死に暴言を吐き、途中から無言になる。

私と彼の距離は15cm。耳元で声を囁いてくれる。


そう!VTuverの繊月海斗様!

美しさの権化!「かわいい・カッコいい・気高い」という3Kはこの人のためにある!普段はカッコいいキャラなのに他のライバーと弛むと末っ子キャラになるのは卑怯よ!私の生涯は全てこの人に預けるわ。


私は無事に尊死し、無駄に有り余っていた金で最新のパソコンや液晶タブレットを購入。2年間、ゲームやイラスト、配信について勉強した。



そして第2の人生、新人VTuverへと歩み出したのだっー!



とまあ、そんな簡単になれるわけではないのだ。

VTuverになるために根暗を改善し、キャラを作った。けれど、オリジナリティがないのか、はたまた元根暗を見抜かれたのか分からないが、大手事務所の面接にはことごとく落ちた。繊月様の事務所は新人を募集していなかった。


しかしある夜、募集情報が公開され、私は嬉しさのあまりに隣に住んでいる話したことのないお兄さんにまで歓喜を伝えた。


そして面接に応募、一次、二次面接も難なくクリアし、桜の咲く時期に第5期生としてVTuverの活動を開始した。


と、ここまでかなり順調だったが、活動自体は地道な積み上げだった。キャラクター性がありふれてはいたものの、私の世間知らずなトークが刺さったのか登録者数が低迷することはなかった。ただ、他の方々に比べると見劣りしてしまう私だった。


けれど、自分の存在価値を初めて感じ、居場所を見つけることができた。ゲームをしながらファンと雑談をし、たまにイラストを描いたり、無茶振りをした。


生活が彩られていくのを感じて3ヶ月経った今日、綺麗な字で「如月ぽみ様」と書かれた手紙が届いた。

住所を特定されたのかとゾッとしたが、開けてみると事務所からのパーティの招待状だった。顔合わせの機会を設けるためにパーティを開いたようだ。顔合わせが必要なのか。それとも何かの企画か。


いや、そんなことはどうでもよいのだ!それよりこのパーティには繊月様が来るはず!生!生繊月海斗様だ!よいのか、私、一ファンとして、推し様との接触はよろしいのか⁉︎

いやいやいや、冷静になりたまえ私。これはファンとして繊月様に接触する機会ではなくて、社員、タレントとして先輩方や同輩との交流なのだぞ!淫らな感情は捨てたまえ!


そう自分に言い聞かせながら、ネット通販で二万円のワンピースをポチった。

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