第32話 魔界に帰還する
今回短いです。
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俺は禁呪魔法によって神聖王国を完全に滅ぼした後、少し勇者の動向が気になったので今は遥か上空から監視している。
勇者達は先程の禁呪魔法に気付いたのか、更に速度を速めて隣国に逃げていた。
「……まぁ自分の命は大事か」
そもそも日本は世界でも有数の平和な国だったからな。
特に今まで死にそうな場面に出会った事もないだろうから恐怖で身体が勝手に動いているのかもしれない。
「果たしてそれを勇者がやって良いのか、と言う問題はあるけど」
俺が初めてこの世界に来た時は勇者が俺しか居なかったから逃げる事など許されない。
しかしその分何ヶ国もの大国が俺を全面パックアップしてくれたので、お金も困る事なく、どの街に行っても友好的で、戦闘でもマジで何度か死んだがその都度大国に居る死者蘇生の出来る者に無料で蘇生してもらっていた。
また痛覚を遮断する術や秘伝の自己蘇生の魔法まで教えてもらったな。
お陰でどんな相手にも恐れず立ち向かう事ができたので、当時の王達にはそれなりに感謝している。
しかし今代の勇者は全三〇人以上。
そして魔王は俺の時よりもまだ弱い。
その為正直何人か死んでも多少戦力が落ちるだけで全く問題ないと考えられたのだろう。
でないと勇者だけで色んな所をふらふらさせない。
俺の頃は世界最強級の仲間と常に行動していたし。
こう思えば嫌な年代に召喚された哀れな勇者だな。
人間は腐ってるし、人数が多い分パックアップも少ない……いや、俺が神聖王国を滅ぼしたからもう支援はないか。
と言うか支援がなくなる事は考えなかったのか?
俺だったら文字通り死ぬ気で死守するが。
「まっ、自業自得か。アイツらにはゆっくりと苦しめてやらないと気が済まない。精々苦しんでくれよ」
俺は隣国に到着した勇者一向に追跡魔法をつけてから魔王城に転移した。
俺が魔王城の中庭に転移すると、そこにはアリシアを始め、魔王軍幹部やベル、果てには魔王軍の軍隊までもが綺麗に並んでいた。
「これは……一体どう言う事なんだ……?」
イマイチ状況が理解できない俺はアリシアに聞く。
いや誰だって帰った途端に大量の者から跪かれていたら少しテンパるだろ。
それにアリシア以外の全てが俺に向かって跪いているんだぞ?
「どうかしら? 驚いた?」
アリシアが悪戯っぽく笑う。
その表情はアレンによく似ており、酷く懐かしく感じてしまった。
親子といっても全くの別人だと言うのに。
「まぁそりゃあ驚いたぞ。でも俺を驚かせるためだけに集めたわけじゃないんだろ?」
「勿論よ。別に驚かせるだけなら私が跪くのが一番なんだし」
「それは絶対にやめろよ」
「しないわよ。それで本題なのだけど……取り敢えず神聖王国を滅ぼしてくれてありがとう。あの国はよく魔界に攻め込もうとしていたから邪魔だったのよ」
そう言うアリシアはとてもスカッとした様な気持ちの良い表情をしていた。
しかもそれはアリシアだけで無く、一端の魔王軍兵すらもが同じ様な顔をしている。
どうやらあの国はよっぽど魔族に嫌われていた様だ。
まぁだから勇者を召喚したのかもしれないが。
俺がそう考えていると、アリシアが拡声魔法を発動し、笑みを収めて厳格とした表情に変化する。
「そしてこれは全魔王軍への勅令なのだけど……私、魔王アリシアは我が魔界全勢力を持って人間界を侵略します!」
その言葉に魔王軍がどよめく。
まあここ三〇〇年は人間界への干渉を全くといって良いほどしていなかったらしいからな。
アリシアの演説は続く。
「本来この様な事をする予定ではありませんでした。戦争を始めた所で同胞の死が増えるのみ。そんな無益な事をする必要などない……そう思っていました。しかし人間は私達魔族滅亡を諦めませんでした。常に魔界に入る方法を探し、着々と戦争を始める準備をしていました。このままでは私達はやられるのみ。そんな事を許して良いのでしょうか!?」
魔王軍の兵士達が口々に「ダメだ!」「アイツらは欲に取り憑かれた悪魔だ!」「絶対に許してはならない!」などと声を上げる。
「そう、決して許してはいけません!! 私達は必死に抗わなければなりません!! しかし数では人間が圧倒しています……ですが、私達には五〇〇年前に歴代最強と謳われた大魔王を一騎討ちで討ち取った最強の勇者———浅井優斗がついています!!」
ここで全員の視線が俺の方に向く。
そしてアリシアが目線で「何か言え」と伝えてくる。
はぁ……無茶振りをしてくるな……まぁ少しでも何か言っておくか。
「魔王軍の諸君。俺は先程紹介にあったように一応元勇者だ。歴代最強の大魔王を討伐したのも間違いない。そんな俺がお前達に言う事は一つ——
——元勇者と魔王が力を合わせたら最強に決まってるだろ?」
それを人間に示してやろう。
一体誰を敵に回してしまったのかを。
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