第27話 勇者から反逆者へ

「居たぞ! 侵入者だ!! 陛下からは殺しても構わんとのお達しを受けているから、躊躇せず殺せ!」


 俺を見つけた他の兵士よりも良い防具に身を包んだ男がそう叫ぶと共に、沢山の兵士が俺に果敢に襲いかかってくる。

 しっかりと訓練されているのか連携が出来ており、並みの侵入者は何も出来ずに殺されてしまうだろう。

 並みの侵入者なら・・・・・・・・の話だが。


「……相手が悪かったな」


 俺は襲ってくる兵士、その全てを魔力によって飛ばした斬撃よって一刀の内に斬り伏せる。

 その瞬間に上半身と下半身が亡き別れし、血が吹き出す。

 皆何をされたか分からないと言う困惑の表情で死んでいた。

 

「な、何が―――」


 俺は呆然としている身なりの良い兵士の体を両断する。


 先程からこんな事が続いている。

 正直何処からそんなに兵士を持ってきているのかと思うくらい人が多い。

 それにコイツらのせいでどんどん愚王の気配が離れていくのを感じる。


「チッ……面倒だな……」


 俺は舌打ちをしながら気配を追いかける。

 すると道を塞ぐようにして一人の男が立っていた。

 

「侵入者よ、此処から先は絶対に通さん」


 そう言って剣を構える男からは、強者の風格を感じる。

 これが王国最強の騎士か?


「お前が王国の騎士団長か?」

「……そうだ――です」


 俺の声を聞いた途端に目を見開き、敬語に変わる騎士団長。

 もしかしたら俺の正体に気づいたのかもしれない。

 俺は念の為ステータスを確認する。


————————————————

レイドル

人間 43歳


《スキル》

【剣術Level:10】【闘気オーラLevel:9】【身体強化:10】

【見切り:8】【指揮:7】


ステータス

Level:729

総合値:627400(EX級)

体力:144900

魔力:98200

筋力:131000

防御力:143300

敏捷性:114500

————————————————


 確かに騎士団長と言われれば納得する強さだが……


「……弱いな。昔はもっと強かったぞ……」

「確かに勇者様なら私が弱いと思うことも分かります」


 コイツ……やっぱり俺の正体に気付いていたか。


「俺の正体が分かっているならもう分かって居るだろ? そこをどけろ。今はお前の相手をしている暇はない」

「……一つ聞いても宜しいでしょうか?」


 騎士団長がそんな事を言ってくるので、取り敢えず言わせる。


「なんだ?」

「ありがとうございます。それでは……王国を滅ぼすおつもりですか?」


 険しい表情でそう聞いてくる騎士団長に俺は少し感心していた。

 それと同時に、愚王に対して、こんなに優秀な部下が居るのに何であんな馬鹿なことをしたのかと言う呆れとも言える落胆を感じる。

 

「……そうだ。俺は今日――この国を滅ぼす」

「……分かりました。では私の全力を持ってほんの少しの反抗を試みてみます」


 そう言った騎士団長は闘気をその身に纏い、剣の切っ先を俺に向ける。

 俺はそんな騎士団長の行動にため息を吐く。


「……お前では俺に絶対に勝てないぞ?」

「分かっております。ですが私はこの国の騎士団長。国を見捨てて生きるなど出来ません」


 騎士団長の瞳には死ぬ覚悟が宿っていた。

 彼からは今までの人間から感じていた醜い雰囲気が一切漂っていない。

 きっといい人なんだろう。

 そうでなければ絶対に勝てない相手に国のためと言って剣を向けることなど出来ない。

 だが――


「――俺の邪魔をするなら容赦はしない」


 俺も剣を構えて戦闘態勢に入る。

 向こうにも譲れないものがあるように、此方にも譲れないものがあるのだ。

 

 お互いが戦闘態勢に入ったことにより、辺りが静まり返り、二人の呼吸音しかなくなった。

 そして勝負は一瞬だった。


「はぁあああああああ!!」


 騎士団長が気迫の声を上げて今までの兵士など比べ物にならない速度で接近してきて剣を振り下ろす。

 俺はそれをほんの少し動くことによって完全に回避し、首を斬った。


「…………どうか来世で幸福があらんことを――【聖火】」


 俺はこの勇敢なる騎士にそう言わざるを得なかった。 

 俺の放った青白い炎は騎士団長――レイドルの体を優しく包むと、一瞬にして炎と共にレイドルの体が消滅する。

 このスキルは主に聖職者が使用するスキルで、死者を弔うために使われ、五〇〇年前では王族だけに使えるものだった。

 そのため純粋な攻撃力はなく、習得する人も少なかった。

 

「さて……そろそろ愚王の下に行かないとな」


 俺は振り返ることなく愚王下に向かった。





***




「……此処から愚王の気配を感じるが……見た感じ何もないな」


 俺は愚王の寝室に入ったが、案の定奴は居なかった。

 そして壁の奥から奴の気配がするので、きっと逃げたのだろう。

 

「……国も家族も捨てて逃げるか……とことん屑だな」


 俺は開け方など知らないので、壁を殴って無理やりこじ開ける。

 するとやはり俺の予想通り秘密の抜け道があった。


 俺が真っ暗な道を炎で照らしながら高速に進んでいくと……直ぐに見つけた。


「――おい」

「なん――ヒッ!? ゆ、勇者様!? もしかして――」

「そうだ。俺が侵入者だ」


 俺がそう言うと、愚王は突然俺の下にすり寄ってきて巫山戯たことを抜かし始めた。

 

「ゆ、勇者なら我を救え!」


 …………は?

 コイツは何を言ってんだ?

 

「何故俺が貴様を助けなければいけない?」

「も、勿論我が勇者様をこの世界に連れてきたからだ! 勇者は皆我の駒。我の命令は絶対なの―――グハッ!?」


 俺はあまりにも聞くに耐えなかったので、黙らせる意味でも奴の顔面を殴る。

 愚王は俺の殴打をモロに食らって後ろに吹っ飛んだ。

 俺は顔を押さえる愚王に近付いて耳元に囁く。


「お前はどうしようもないクズだな。だがお陰で気に病む事なく殺す事が出来そうだ」


 俺はそれだけ伝えると、亜空間収納に入れる。

 これでこの王城に用はなくなったので、直ぐに王城を出る。

 すると外は火の手が回っており、沢山の国民が王城の前に集まっていた。


 どうやら皆上手くやってくれたようだ。

 これで舞台は整った。


「――神聖王国の国民たちよ、私の話を聞いてほしい!! 私の名は浅井優斗。この国の王によって無理矢理連れてこられた勇者である!!」


 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 新作を投稿しました。

 今回は現代ファンタジーです。

 ぜひ読んでみて下さい。

 

『俺だけ持っている【異世界の記憶】スキルが最強すぎる件〜ダンジョン溢れる現代を、チート知識と数多のスキルで超速レベルアップして無双します〜』

https://kakuyomu.jp/works/16817330651814491190 

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