第5話 人間の醜さに触れました②

 俺は街に入った瞬間に人目のない所で防具を脱ぎ、制服も脱ぐ。

 この世界で制服姿は目立つから、俺が身分証明証を持っていないことが露見する確率が高くなる。

 そうなると非常に厄介なので、傷をポーションで治した後、亜空間収納に入っていた平民の服に着替えてから町をブラブラとあてもなく散歩する。


「おお……思ったより賑わってんな」


 街の中は、表面上は平和そのものだった。

 商業も思った以上に栄えている。

 ご飯も……うまそうだな……。


「そのためにまずは換金しないとな」


 俺は取り敢えず換金できる場所を探す。

 やはり魔物の素材を売るなら冒険者ギルドが一番だろう。 

 あの兵士の反応を見るに、冒険者が居ないということはないだろうしそこは疑っていなかったのでこの街にも冒険者ギルドがあるはずだ。


 俺は街の人に冒険者ギルドの場所を聞きながら二〇分ほどで目的地へと到着した。

 建物は昔と殆ど変わっておらず、冒険者ギルドのシンボルである二本の剣と盾のマークもそのままだった。

 俺は懐かしく思いながらも中に足を踏み入れる。


「シンファちゃん、依頼完了したぜ!」

「おいジジイ! この素材を換金してくれねぇか!」

「この勝負に負けたら酒奢れよ!」

「いいだろう、やってやらぁ!!」


 五〇〇年ぶりの冒険者ギルドの中は相変わらず五月蝿かった。

 あちこちで罵声や歓声が飛び交い、受付嬢に自身の自慢話をする声などが沢山耳に入ってくる。

 俺はその光景に口角を少し上げながら換金する場所へと移動する。

 すると換金出来ると思われる場所にはムキムキのお爺さんが居た。


「爺さん、素材を換金して欲しいんだが……」

「ん? ああいいぞ、ここに出してくれ」


 そう言ってカウンターを指差されたので、カウンターに乗り切る程度のゴブリンデビルやオークデビルの素材を取り出す。

 すると、見た感じ何も持っていなかった俺がいきなり大量の素材を出したことに驚いたお爺さんが椅子から落ちて尻餅をついた。


「お、お前さん……それは何処から出したんだ……? 見た感じ手ぶらだったが。――もしかして空間収納袋マジックポーチか!?」

「おっ、よく分かったね爺さん。たまたま古代遺跡で見つけたんだよ」

「それは凄いな! まさかお主のような子供が古代遺跡に潜れるほどの強者だったとは! 世界はまだまだわしの知らないことばかりだな! ガッハッハッハッハ!」

「それで爺さん、鑑定の結果は?」

「ああすまんすまん、少しテンションが上がり過ぎてしもうた。うむ……これ程良質な素材には中々お目にかかれないからな……金貨一枚でどうだ?」

「それでいいいんだが……なぁ爺さん、俺は田舎から出てきたばっかりでイマイチお金の価値がわからないんだがそれってどれくらいなんだ?」


 俺がそう言うと爺さんは大まかに説明してくれた。

 

「大体金貨一枚で一ヶ月は過ごせるな。銀貨だと一日、銅貨だと一食だ」

「ありがとう爺さん。また来るよ」

「おう! 俺は毎日いるからな、何時でも待ってるぞ若き強者よ!! ガッハッハッハッハッ!!」


 いい爺さんだったな。

 ずっと屑しかみてなかったから余計によく見えるよ。

 うん……また定期的に此処に来るとしよう。

 爺さんに色々と聞いてみたいこともあるし、純粋に話しやすかったしな。


 俺はこの時当たり前に会えると思っていた。

 だが俺は二年もの平和な世界での暮らしのせいで忘れてしまっていた。



 人間の物凄い貪欲さに―――






***






 俺は今、三日ぶりに冒険者ギルドを訪れている。

 この時代がどんな風になっているのかを爺さんに聞くためだ。

 辺りを見渡して爺さんを探してみるが……


「おかしいな……あの爺さん毎日いるって聞いてたんだが……」


 しかしあの気前のいい爺さんの姿は何処にも見当たらない。

 俺は不思議に思い、受付嬢の人に聞いてみる。


「あの……換金の爺さんは何処に居るのでしょうか? 毎日居ると聞いていたのですが……」


 すると受付嬢から衝撃的な言葉が飛び出た。


「ああ……あの老いぼれなら死にましたよ」

「―――……え?」


 俺の聞き間違いか?

 死んだだって?

 誰が? あの爺さんが?


 俺の頭は疑問で埋め尽くされる。

 あんなに元気で気配でも病気を患って居ないことは確認していたので病死ではないはずだ。

 と言うことは自殺か他殺のどちらかなのだが……。


「あ、あの……どうして死んだのでしょうか? それに同僚に対して老いぼれと言うのはどうかと――」

 

 俺がそこまで言ったところで鬱陶しそうに俺を見た受付嬢が、吐き捨てるように言った。


「あの老いぼ――ドンシーは冒険者ギルドの命令を聞かなかったため、ギルド長が冒険者の方に依頼して魔物の囮にして食い殺させたらしいです」

「……どう言う事だ……? 冒険者ギルドの命令とは?」

「貴方の空間収納袋の奪取です。そんな高価なものを一介の冒険者でもない貴方が持っていて言い訳がないじゃないですか」


 俺はその説明の途中は何を言っているのか分からなかった。

 俺の空間収納袋が目当て?

 でもならなんで俺を狙わずに爺さんを殺したんだ?


「その説明だったら爺さんが死んだ理由が分からん。もっと詳細を教えろ」

「……偉そうですね……まぁいいです。それで貴方の空間収納袋を奪えと命令がくだされたのですが……あの老いぼれは残念ながら頑なに拒否したので強硬手段を取ることとなりました。これでお分かり頂けましたか? では……さっさと渡して下さい」


 あの爺さんはこんな一度しか会っていない俺のために、自らの命を投げ売ったっていうのか?

 こんな腐りきったモノ・・に?


「……依頼を受けた冒険者は渋々受けたのか?」

「いいえ、報酬がいいと喜んでいましたよ。ああ……後、街の人も喜んでいましたね。どれだけ頼み込んでも融通の効かない頑固なクソジジイが居なくなったと。では私の貴重な時間を浪費させた貴方はさっさと渡して下さい」


 ああ……これでよく分かったよ……この時代の人間がどれ程腐っているのかがな。

 俺は……俺達は、こんな奴らの為に戦っていたなんてな。

 

 本当に馬鹿なことをしたよ……俺達は。


 なぁ? ルイナ、ブラッド、アレン、そして……シンシア。

 

 もうこれ以上のことは耐えられない。

 お前達もほんとに幸せだったのかが分からなくなってくるよ。


 ただ――もう俺は人間を救おうとは思わない。




「ああ、いいだろう……そこまで言うなら渡してやるよ」

「ええ―――何をしようとしているのですか!?」


 俺は受付嬢の言葉を無視して亜空間収納から愛剣である聖剣グラムを取り出して天に掲げる。

 グラムは最初、眩いほどの白銀の輝きを纏っていたが、徐々に深淵の闇に塗りつぶされていった。

 堕ちた聖剣――魔剣グラムを手に受付嬢に言葉を返す。




「何って……お前達に渡すんだよ。―――永遠に続く地獄への片道切符をな―――」


 


 ―――その日、世界から一つの街が消えた。


 ―――そして世界は、最も敵に回してはならない者を敵に回してしまったことをまだ知らない。




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 お試し投稿なので、5万字程書いた時点で、人気であれば続けます。

 なので、☆☆☆とフォローをよろしくお願いします。

 

 

 

 

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