第293話 食べ物の恨み
第293話 食べ物の恨み
「うまい。全部やっちゃおうか」
「はい!」
あまり褒められた事がないせいか、気持ちよくなりどんどんと作ってはお湯の中に入れていった。
「終わりました!」
「あとはしばらく待とうか」
鍋の中を見ると明らかに摺鉢の中で作った肉よりも多くの量のものが入っていたのだが、あまり気にはならなかった。
しかし、それを後で少しだけ後悔することになる。
蓋をしてキノが再びハンモックに座る。少しでもいい体勢を見つけようとするもやはり切り株は切り株で痛い。
「おいで」
キノが自分の膝を叩き、手招きをするのだがそれが自分に向けられたものだと知ると急に恥ずかしくなる。
「えっ、いや....その....。私もう小さい子供じゃありませんし」
「おいで」
そんなこと全く意に返すことなくキノが再び招く。それに観念したのか、キノの膝の上に乗っかった。
「じゃあいくよ」
「え?行くって何処に?」
キノがメイドの子を抱えながら思い切り後退りし、ハンモックに飛び乗る。すると反動で、前に二人が進みだし、一定の高さになると後ろに下がるのだ。
「アハハハハハ!」
「ちょっと高いんですけど!!?」
大した高さではないのだが、不安定なせいか恐怖感が拭えなかった。腕の中で焦る姿を見てキノが子供のように声を上げて笑う。
「分かった。もう少しゆっくり漕ぐ」
脚を伸ばす動きの振れ幅をもっと小さくしながら控え気味に漕ぐと、心地のいい森の独特な空気感が身体の中へと入ってくる。
「あの!」
「どうかした?」
「キノさんはどうして冒険者になったんですか?」
「知らない」
「え?」
「小さい時に貴族が面白半分で飼われていた魔物に噛まれてその魔物に刻まれてた色々な術式が私の体の中で混ざって解除不可能な程複雑に絡まり合って呪いになった」
「呪い....。現段階では説明できない魔法効果ですよね?」
「そう。身体中の魔力が腐って基本魔法くらいしかまともに使えないし、性別も行き来する始末。本来ならそこで死ぬはずだったけど、誰かに助けられたっぽい」
「覚えてないんですか?」
「その人のこと思い出そうとすると頭の中が霧でいっぱいになる。その後は冒険者になったけど本当の性別と同じく、何でなったかは覚えてない」
「凄い話ですね。普通よく分からないのに命を掛けるなんて....」
「基本的に私バカだから。私にはそれくらいが丁度良い」
そう言って何かに気付いたように地面に脚をつけ、即席ハンモックブランコを止める。
「どうしました?」
「そろそろいい塩梅」
鍋の蓋の取っ手を持ち中を開けると、ボワっと白い湯気と共に香草の香りが広がった。
肉を詰め込んだ腸も上下のうち片方は底を引っ掻くように沈み、反対側は水面から顔を僅かに出すようにぷかぷかしていた。
「これはこのまま食べられるんですか?」
「茹でたけど焼いた方が美味しい」
鍋をずらし、蓋を逆さまにし焚き火を入れた土の中に中央の取手の部分をぶっ刺す。
「持ち手の丸いところと横の持ち手の部分木ですけど、燃えません?」
「水分が多い木だし、問題ない。直接燃えた木が触れてるわけじゃないし」
上から少し押して軽くめり込ませる。
「この上で何するんですか?」
「フライパンの代わり。もう火や湯気でないし馬呼ぼ」
胸を押さえ、真後ろに倒れキノがハンモックの上で項垂れる。
「え?キノさん?」
全く予期していなかったその反応に戸惑っていると、遠くからこの森に来る時に捕まえた野生馬が2頭やってくる。2頭とも茶色の毛色なのだが、大人の馬と比べると若干見劣りする。
「よし、来たか」
「え!? キノさん?」
急に上半身をギュイーンと元の位置まで戻し、駆け寄ってきた馬を鍋から少し話した位置で静止させ、その場に座らせた。
「どうかした?」
「何したんですか? そもそも何で今馬を呼んだんです?」
「死んだふりして驚かせた声を聞かせた。馬は臆病で聴力が高い。変な声がしたら見にきてそれが手に負えなかったら逃げる性質があるから、大声で呼ぶよりこっちの方が効果的。熊とかが他にいたら食べられちゃうから呼んだ。細い枝に括り付けてただけだし、煙も火ももう出ないから」
ハンモックから自分だけ降り、鍋の中に木製トングを入れ中の料理を取り出すとそれを鍋の蓋の上に置く。
すると表面に付いた水分が一瞬にして無くなり、うっすらと焼き目が付く。
全体を軽く焼き、木製皿に2本それを入れ、軽く塩を振ったものをメイドに木製フォークと共に渡す。
「はい、どうぞ」
「これって何の料理なんですか?」
「うん?ソーセージだけど?」
「コレがですか!?」
ソーセージ自体はこの国ではポピュラーであり、朝食や酒のつまみとして好まれている。しかし、このソーセージはそれとは明らかに違う。灰色と赤色のやつが皿の中に入っているのだが、自分が知っているソーセージではない。
「今回は燻製してないから。そうすると肉の色がダイレクトに出るから生ソーセージってところ」
「そうなんですね....。食べてみます!」
灰色のソーセージにフォークを刺し口に運ぶ。そして躊躇なく口に入れてそのまま噛み締めるとむせ返りそうな量の油が中から噴き出す。
「なんれすかこれ!!すごいジューシー!!」
自分がかぶりついたソーセージの断面を見るとドクドクと言わんばかりの油が中から溢れており、急いで残りを口の中に入れる。
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