第294話 食事実験

第294話 食事実験


「燻製してないからソーセージ自体が柔らかくて滅茶苦茶油が出てくる。香草だってすごい香るでしょ?」


 キノもソーセージを静かに焼きながら自分の口に焼けたやつを放り込んでいく。そして、近づいてきた馬に鍋から赤いソーセージを出してそれを二頭に向けて投げると、器用に口を開けて空中でキャッチして食べる。


「お馬さんも食べて大丈夫なんですか!?」


「野生馬のこの子達は鉄分やミネラルが足りないから鉄を見ると舐めようとするんだけど熱々の鍋を舐めたら火傷するからあげた。赤い方のソーセージだけだけどね」


「赤い方のソーセージ?」


 皿の中に入っていた赤いソーセージを口に入れ、そのまま噛み締める。すると先程のように肉汁が溢れる事はないのだが、強い熊の味を感じる。


「なんですかこれ? 中に入ってるのお肉じゃないですよね?」


「熊の血液のソーセージ。色々な栄養が詰まってる。マズイ?」


「いえ、まずくはないです。でも、熊の味が凄いするのに肉汁が出ないのが不思議で....」


「そう。私は血のソーセージより普通のお肉たっぷりのやつが好き」


 そう言って肉がたっぷりと詰まったソーセージの肉汁を啜りながら食べ進める。


「全部肉の方食べないでくださいよ!ずっと同じソーセージを食べるのは辛いですからね!」


「えっ? あ、うんうん。大丈夫」


「その意味深な反応はなんですか!?」


「いや、なんでもない....」


 はくはぐと皿の中の赤いソーセージを食べるとキノが奉行を務めて取り仕切る鍋の中を見る。すると、赤いソーセージは無数にあるのだが普通のソーセージは片手で数える程度しかない。


「赤いソーセージばっかりじゃないですか!どうするんです!?」


「あんまり耳元で大きな声出さないで。これあげるから許して」


 マジックバックから少し大き目の透明な瓶取り出すのだが、木製の蓋が絶対に開かないようにぐるっと一周布が巻かれていた。


 しかも、その中に入っているのは湿ったキャベツがシワシワになってパンパンに入っていた。


「なんですかそれ?なんでそんな厳重に封がされてるんです!?」


「よく分からないけど、私を助けてくれた人もこうやってた気する。やらなかったら吹き出してたんだ....」


 布の封を解いて瓶を開けようと力を込める。


「いやいや、こんなもの命の恩人が本当に作ってました!? これ好んで食べてたらかなりの変人ですよ!!!」


「大丈夫。人なんて一皮剥けばみんな変人でみんな変態」


「いや、コレは変態の方向性が違う方の変態ですからね!」


 キノがポンと瓶の蓋を開けるとモワッと酸味の強い香りが辺りに充満する。小さな木製のトングを限界まで瓶に入れ思い切りワシっと取ると細切りにされたキャベツが瓶の中から現れその身には酸っぱい液体を纏っていた。


「さぁ、召し上がれ」


 しかもそれはキノが食べるようではなく、メイドの子用のようだ。皿に大量のキャベツが盛られていく様をレモンを齧った時のように味のある表情で引きながら見ていた。


「これ、確認ですけどちゃんと食べられるんですよね? キノさんはもうこれ食べました?」


 そう言われるとキノが視線を背ける。


「食べてないんですか!?その反応!じゃあ、なんでここにこのタイミングで出したんですか!?」


「記憶の中で顔がよくわからない例の人に助けられた時にソーセージとこんな食べ物を一緒に食べさせてもらって美味しかったのを覚えてる。作り方もこんなんだったような?」


「一番大事な作り方がうろ覚えじゃないですか!?調味料とかも合ってます?」


「もうできたやつを瓶から出して貰ったから作り方や調味料は分からない。味的にはお酢と塩。後はこれを偶にかき混ぜながら漬けた」


「大丈夫ですか? 腐ってません?」


「異世界から伝わったチーズとかも腐ってるようなもんだし、問題ない。ここ数年は異世界人見ないけど、何百年も前からこの国と親交あるみたいだし」


「素人判断でやっていい調理じゃない!そもそもその人が異世界人だったらまだ説得力ありますけど....」


「はい、うるさい。どーん」


「んぐ!」


 手早くフォークで皿の中のソーセージを手早く一口サイズに切り、パスタのように細く切られたキャベツを大量に巻き付けながらその先端にソーセージを刺してキノがメイドの口の中にフォークを突っ込み、勢いよくフォークだけを引き抜く。

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