第288話 天才の才能

第288話 天才の才能


その中間のノエルは自分はどうなのだろうかと思うも、口にはしなかった。


「それと、危なくなったら助ける依頼の報酬貰っていい?」


「あ、はい!えっとおいくらですか?」


「360万エールって言いたいけど、流石にあれだけじゃそんなに貰えない」


「そうですね。100万が限度かもしれません....」


「分かった。シャルに聞きたいんだけど、体内に生まれもってない属性の魔力ってまだ残ってる?」


「人の姿の時は感じませんね。でも、体の一部を魔物に変えた時には水の魔力を感じるし、ある程度ならそれを扱える」


「体の中に2つの魔力がある状態。長い間魔物化して何か事業をしようとしてる子達も居るみたいだけど、キメラで無くなった普通の身体にそれを流し込んだらどんな影響が現れるか未知数」


ハッとしたように木箱にロープを巻き付けて空を飛ぶ練習をしている者達に目を配る。


「どうすれば!? 魔物に関してはノウハウがありますが、生れつきでない魔力を持った人のノウハウなんてありませんし、もしもの時の対応が....」


「私たちならある」


どうすれば良いのかと手をこまねいているノエルにキノが言い切る。


「何故そんなノウハウを?」


「詳細は省くけど色々な属性を持てるように人体実験された挙句に下民区に捨てられた子供を引き取って育ててる。一定の魔力を抑制する薬とかもあるから提供できる。で、もし水路みたいに暴走した人が出たら直ぐに止めに来るから200万エールの報酬にして欲しい」


「なるほど。キメラで無くなったメイド達には拮抗魔法具はもう有効ではありませんもんね」


「合成された肉体と魔力は有効だから、キメラの状態で魔法を使ったとしても有効だったと思うけど、殆ど人間な訳だから効果はない」


思慮深く考え更にノエルが口を開く。


「私達に必要な薬の代金は使った分だけ支払い、常備薬としてストックをこの屋敷に置いてください。それに、暴走することがあったらそれを無料で止めてもらえるのであれば今回の報酬を360万エールにします!」


「お嬢様....!」


現在この家の財務状況はあまり芳しくない。領地にある家からは農家であれば食料、鍛冶屋であれば武器を提供してもらいその代わりに身分や生活費を保証している。お金が入ってきたとは言え、易々と冒険者に報酬を払う余裕というのはないのだ。


それを一番理解しているシンラがノエルの行動を憚ろうとする。


「大丈夫。薬だって私たちのノウハウじゃちゃんと作れるか分からない。それに、もしシンラとか戦闘力の高い人が暴れたら私たちだけじゃ対応できない。そんなのに一々お金を払っていた方が馬鹿にならない」


「安心をお金で買うわけですね〜。いやらしい」


「シャル!!」


シャルが茶々をニマニマと笑いながら入れ、シンラに怒られるのだが、あまり気にしていない様子であった。


「じゃあ、お金の用意お願い。それまではエナが一人一人問診するから。メイドの数は35とか36だっけ?」


「シャル含めて35です!」


「オッケー」 


気のぬけた返事をキノがするとエナと一緒に噴水を超えて歩いていく。


屋敷の敷地内では様々な魔物の特徴を引き継いだメイド達が自分に何ができるのかをためしている最中であった。


エナが一人一人に身体は痛いところないかとか一人ずつ問診していく。キノも最初はそれを手伝おうとしていたが、早々に合わないと諦め机の上に置かれたクッキーを貪っていた。


そんな中で一人だけキャピキャピとはしゃぐメイドに混じらない子を見つける。


玄関の石階段に腰を下ろし、溜め息ばかり付いているのだ。


「どうかした? まだ腕の傷痛い?」


「キャァぁぁ!!!」


背後からキノが声を掛けるも頭の先からつま先までを震わせて驚いていた。


「そんなに驚く?」


「驚きますよ!!みんな足音するのに全くしないんですもん!!」


「あ、この前の子か。髪型変えたんだ」


キノがシャーデス家に来た時に腕をプニプニ触ったポニーテルの子なんだと声を聞いてようやく気がつく。


茶色い髪の毛の先端部分が黒くなり、髪型もポニーテールからを下ろした髪型になっており、一瞬誰か分からなかったのだ。


「変えたって言うか、なんて言うか....」


「へぇー」


全く興味無さそうにくすねてきたクッキーをガツガツとキノが食べていた。そんな姿を見ると誰であろうとも真面目に話をしようとする気は失せる。


「何でキノさんは、身体から音がしないんですか?クッキーもそんなバクバク食べたら普通は音しますし、足音だって全くしませんし」


「職業がアサシンだから。アサシンの冒険者試験は唯一、職業魔法が使えなくても基本魔法だけで合格できる。魔法を使えない無能でもなれる職だから、できることをひたすら高めた結果がこれ」


「無能って言ったって、冒険者にはなれてるじゃないですか。その時点で私達一般の人から見たら才能の塊だと思います」


「魔力の属性変換できる?」


「馬鹿にしてるんですか?そんなの誰だってできますよ!」


人差し指に魔力を集めてそれを光に変え、キノに見せた。昼まで日が高いため見えにくいものの、しっかり光っていた。

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