第287話 可愛らしさ

第287話 可愛らしさ


「何を言いたいの?」


「んー?お嬢様は無能なんじゃなくて私達の事をよく見ててくれる。家から追い出されるほど無能な私達をです。それが心地よくて付いて行きたいって心底思うんで、それでいいじゃないですか」


 上から覗きこむようにシャルがニコニコしながら言う。


「そんな当たり前のことでいいの?」


「当たり前じゃないからいいんですよ。もし、私達にだけ働かすのが嫌なら名前教えてください」


「名前?」


「あ、それ私も知りたいです!ここにきた時は材料としてきたから名前なんて聞ける状況じゃありませんでしたから」


 いつもはあまり仲が良くないシャルの言葉にシンラが乗っかる。


「ノエルだけど?」


「え? そんな可愛い名前だったんですか!?」


「シンラ、それどう言う意味?」


「いえ別に....」


 どちらかと言うと研究を棍詰めてやる様子からもっと根暗な名前を想像していたとは言えなかった。


「あれ、お客さんかな?」


 バツが悪くなったこの場から抜け出すためにシャルが門の方を見ると、二人の影があった。


 シャルがパタパタと走って門まで向かうのだが、途中でハッと何かに気がついた表情を浮かべる。


 手を前に出しそのままスライムの触手が門まで伸びていき、内側から魔力を込めると門が開く。


 後でノエルやシンラが何やら騒いでいたが特に気にしない。はしたないとか品がないとか言われているのは分かりきっていたのでそのまま無視を決め込む。


 門から入ってきたのは、キノとエナであった。


「数時間いなかった間にとんでもないことになってるけど大丈夫?」


「大丈夫ですよー。みんな自分の体がどこまで魔物になるのかを試してるんです!」


 シャルが伸びたままの腕をプランプランさせながらそう言うのだが、屋敷の上空を低空でクルクルと旋回する鳥形の魔物をベースにした腕と脚だけ鳥のメイドや耳だけ垂れた犬耳のメイド、自分の腕から生やした木を他のメイドの身体に巻き付け屋敷の屋根へと持ち上げるメイドまで目まぐるしいほど居た。


「エナ、どう思う?」


「うーん、そうだなぁ。魔物って体の割に動かす時のコストパフォーマンスが悪いって聞いたことあるから、体の部位の多くを魔物にする時間が長ければ長い程お腹減ると思う」


「大きい労働力にすればするほど燃費が悪くなるって事か....。使いようだね」


 そんな二人の会話の意味が全くわかっていないシャルがニコッと愛想笑いをして、主人の元へと案内する。


「取り敢えずこれ、叔父さんが何故か分からないけど今までの悪どい行為を洗いざらい話出して不当に得た利益の一部。今ある資産だけだけど、これ渡しに来た」


「こんなに! でも何でそんなことを話したんですかね? 黙ることだってできたのに.....」


 キノがマジックバックの中から、叔父さんのでっぷりと出たお腹と同じくらいパンパンに詰まっているのでは無いかと思えるほどの皮袋を出して手渡す。


「さぁ?でも、人間正気説を信じるなら悪いことしたらいつかはそれを吐き出すってことじゃ無い?」


「はぁ?」



 一体何のことを言っているのか分からないが適当に話を合わせておこうと気の抜けた返事をする。



「私が作った薬、副作用とか大丈夫でしたか?」


「一応、全部のメイドに打ちました!体の一部に合成された魔物の特徴が出るのが副作用かもしれないと言ってましたが、全員にそれが出てるのであの薬の正常な効果なのかもしれません。後は、髪の毛の毛先が黒くなったりするぐらいですね」


「完全に魔物の部分を抑えられなかった訳ですよね。私の薬が未熟なばかりにすみません!」


 ぺこりと頭を下げてエナが謝るのだが、シンラが弁明する。


「顔を上げてください。キメラに合成され他の属性の魔力が身体に宿りましたが生れつきでは無いので我々には投薬などのメンテナンスが必要でした。それがなくなったので、充分成功です。本当にありがとうございます」


 丁寧にエナに対してシンラが頭をぺこりと下げる。


「いえ!そんなとんでも無い!」


「私にはお礼ないの?」


 恩着せがましく、キノがエナの背後からニョッキリ現れるのだが、視界にキノの顔が入っただけで嫌な顔をしていた。


「貴方は私のことを変態扱いしてましたから差し引きゼロです!」


「えー」


 エナにお礼を言うトーンとは比べ物にならないほど低い声で言われ、キノが不満げな顔を態とらしくする。


「じゃあ、代わりに私がする。暴れ回ってだ私を助けてくれてありがとう!」


「ほら、このくらい愛らしい方がメイドは可愛いい。身長の低さより、愛らしさが大事」


「勝手にメイドの理想像を押し付けないでください!」


 女性にしては身長が高いシャルと、女性らしい身長のシンラを見比べてキノが自分のメイド像を語る。

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