第286話 炙り出し
第286話 炙り出し
「さっさと歩け」
外に出るとキノがグルグルに縛った男を足で蹴っていた。
「こんな事をして何になる! そもそも私はどうなる!」
「私たちにさっさと報酬を渡さなかったから冒険者協会の取り調べを受けてもらう」
「なーにが、取り調べだ!どうせあの小娘を助けるための方便だろ? 私には余りある金がある!この指の宝石を見てもわかるだろ!これで直ぐに釈放されて今度はお前たち二人を訴えてやるからな!」
そんな強きな事を言っているのだが、不意に指につけていた宝石の重さ全てが消えた。地面に自分の指が付いたままの宝石10個が落ちていることに気づいてようやく指先が落とされたのだと頭が痛く理解した。
「いい忘れてた。私は自分の利益のために人を道具みたいに使い潰す奴が大嫌い。もし、あんたがその類で今までの行為を悔い改め習いなら個人的にあんたを証拠の1つも残らないように切り刻むことだってできる」
「ヒィィィィ!!!」
地面に這いつくばり、どうにかキノから離れようと懸命に芋虫のように動いていた。
「これから行われる尋問でとぼければ、私が貴方を細切れにする。今まで自分がやった事を尋問を無視して洗いざらい吐いて得た利益を全部出せばある程度は長生きできるかもね」
そう言うキノが握るナイフからはドロっとした液体が滴り、拒否権などなかった。
しばらくして、外套を着たままのお嬢様とそれぞれ上着を着たメイド達がそれぞれ大きなバックを持って屋敷の外に出ていた。
「全員、部屋の中の荷物は持って出てきたかな?」
「持ってきてますけど、どうかしました?」
メイドの集団の前でシンラが何故ここに集められたのか頭を捻りながら質問する。
「みんなを家に返そうと思って。馬車自体は親戚が持ってるやつを借りるんだけど、操縦できる人って何人くらい居るかな?」
「お言葉ですが、この中に家に帰りたい者は誰一人として居ませんよ?」
シンラのその言葉に集められたメイド達が頷く。
何故なのか全く理解できない。
「なんで!? 半ば強引に拒否権なく連れてこられたから帰りたいよね!?」
その言葉に率先して反発するのがスライムの特徴を引き継いだシャルだった。
「そうですけど、私達は元の家での食い扶持減らしって事でここに居ます。家にとって無能だからここにいると言ってもいい。そんな家に帰りたいと思いますか?家にいても下から2つ目とかの身分なら同じ身分でお嬢様に仕えていた方が楽しいんです」
「でも、ここにいてもみんなのこと国からの研究費で養えるか分からないよ!!私と一緒に路頭に迷うより、ある程度職人として力のある家に戻って早いうちにこの領地に見切りつけた方がいいんじゃ....」
「「「嫌ですー!!!」」」
口々にメイド達が自分の体の前で腕をクロスさせ、拒否する。
「お嬢様、我々は今回の件でキメラ合成魔法の研究で国に貢献し、お金を貰うことの難しさを知りました。理由としてはこの研究分野は手軽な一方で研究され尽くされているからです」
「シンラの言う通りだけど、お母様がやってたように何かに特出したキメラの研究をすればこの領地の人の身分の維持費だって....」
「それって何年掛かります?」
「え?」
「お嬢様、秘伝魔法上手く扱えませんよね?」
「そうだけど。上手く扱えるようになるまではどうにか他の事業とかもやってやりくりするし」
「私達はそれが嫌なんです。おんぶに抱っこじゃなくてちゃんとお嬢様を支えてお金を稼いでこの領地を守って行きたい。そう思ったので、家には帰りません。てな訳でみんな荷物を自分の部屋に戻して〜!これからどうやって稼いでこの領地を経営するかの会議から始めるよー」
「「「はーい!!」」」
家主の意見を全て却下し、メイド長がメイド達に命令すると、自分の荷物を屋敷に運び入れる。
そして、庭に出てくるとみんな様々な物を持ってくる。長い木の机の上には焼き菓子や紅茶が入ったポットが置かれ、立ち話をしながらこれからこの領地で何を行うべきかをキャピキャピ話す。
そんな様子を噴水の周りのベンチに座りながら家主が見ていた。
「こんなところで何黄昏てるんですか?」
「シンラ....。なんて言うか、みんな逞しくてさ。勝手に研究材料として連れてこられたのに、家に帰らないでこの家に残ってくれるって言ってくれたし....。それに引き換え私はダメダメだなーって思ってた」
そんなネガティブな発言をしていると不意に視界がゼリーのような物で覆われた。
「だーれだ?」
「シャルでしょ?」
「凄い、大当たり!!」
「そりゃあ、透明なゼリーの腕なんてシャルぐらいしかいないもん」
「でも、私の腕のことを知らないと答えられませんよ?」
何か言葉に意味を含ませてるシャルに直接意味を聞く。
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