第289話 森のお散歩
第289話 森のお散歩
「凄い、凄い! 天才!」
「馬鹿にしてます?」
「してないよ。だって私できない」
「え?」
「私の体の中の魔力は腐ってて、体内での属性変換できないから魔石を使わなきゃいけない。私からしたらそれができる時点で才能あるよ」
キノが溜息ばかり吐いているメイドの横に座り、頭を撫でる。
「そんなの、キノさんが劣ってるだけじゃないですか....」
「そうだよ。でも私の目から見たら才能ある。このクッキーだって貴方みたいに上手に焼けないし」
「何で私が焼いたって知ってるんですか!?」
「だって貴方だけ食べてない。みんなに遠慮してどちらかと言うと食べて欲しいから。」
バンバンとお構いなしにキノが踏み込んでいく。
「そうですけど....」
「少しだけお姉さんっぽいこと言う。誰かから見たら他人なんてみんな天才。自分にないものを持ってるから。そんなのに一喜一憂してたら心が擦り減って疲れる」
「そうですけど....」
「何に悩んでるか話して。少しは楽になる」
普通であれば話さなかったが、キノの妙に説得力のある話を聞いて自分の話を話そうとする。
「私、落ちこぼれなんです。家は鍛冶職人の家系なんですけど非力で飯炊きぐらいしかできませんし、研究材料としてキメラにされても要求される属性魔法を使おうとしたら自分の身体を傷つけた。薬を飲んでキメラじゃなくなっても身体に出てきた魔物の特徴は少しだけで他のお姉さんたちみたいに空を飛べるわけでも、木を生やせる訳でもない。どこにいてもお荷物なんだなって」
「魔物の特徴出してみて」
「嫌ですよ。非力だから見たくもない」
話を全く聞いていなかったのかと言う程脈絡のないキノに若干引きながら、膝を立て顔を腕の中に隠す。
「見てみたい!!」
その腕を無理やり引き剥がし、顔を覗き込むように無邪気に
「見てみたい!」
と言うのだ。キノの方が明らかに年上ではあるのだが、その様子は歳上とは思えない。
「笑わないでくださいよ?」
「うん」
そんなキノに根負けしたから、面倒くさく思ったか折れる。そして、耳に力を入れるとあっという間に犬の垂れ耳のようになり髪の毛から見えるようになる。
「ほら、変でしょ?他の子はもっと魔物みたいになれるのに」
人間の体でそこだけが魔物の因子を引き継いだ奇妙な形で照れながらキノの事を見るとキノが真顔になっていた。
無言でそのメイドを胡座をかいた自分の脚の上に乗せ、手で、耳をパタパタとする。
「可愛い」
「遊ばないでくださいよ!!」
キノが空気を溜めて耳元で呟いた一言に背筋に快感が走りながらも必死に抗おうとする。
しかし、単純に力負けし大人しくキノの腕の中で座らされてしまった。
「お菓子食べる?」
「私が作ったやつは食べませんよ? あれは皆さんに焼いたやつで私みたいな無能が食べていいものじゃありませんから!」
「面倒臭いな。食べたいなら食べていいのに」
「面倒くさくないです!普通です!!」
「ほら」
「ムグッ、何ですかこれ? 甘いですけど....」
「林檎の蜂蜜漬けだったやつを干してドライフルーツにした」
串切りにされた林檎を噛むと周りはフニャンとしているのだが、中心部はまだシャクとする不思議な食感。口の中で林檎の繊維が解け、独特な酸味が口いっぱいに広がる。
「美味しい....」
「ここで依頼を受けた時のお菓子を作ってくれたのも貴方でしょ?」
「そうですけど....」
「中々あんなにうまく作れない。お店やれば良い」
「勝手な事言わないでくださいよ。ありふれたデザートにありふれたクッキー。そんなの誰も買いませんよ。世の中は物に溢れてるじゃないすか」
「じゃあ、この領地で取れるものをふんだんに使ってこの領地を宣伝すれば良い。他の領地と取引を増やしたり国外に輸出すれば儲かる」
「みんなは体を資本に命を掛けて色々なことをやろうとしてるのに、私だけ料理って....」
「仕事に差はない。でも、そんなに命を掛けたいなら、掛けようか」
ヒョイっと抱き抱え、そのまま立たせると手を引いてノエルの元までやってくる。
「この子ちょっと貸して。後、適当に散歩してくる」
「構いませんよ。あ、移動の際は領地内の野生馬を適当に捕まえて使ってください!この領地馬鹿みたいに広いので!」
「分かった」
何をしてくるのかも具体的に告げずにキノがスタコラと小さい手を引いて出掛けていった。
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