第103話 淀み
第103話 淀み
一階の一番奥には風呂が二つある。入り口も二股に分かれており、男が入る方には青い暖簾、女が入る方には赤い暖簾が掛かっている。
二人とも赤い暖簾を潜ると服を脱ぐ場所部屋に出る。壁に沿って服を入れる場所が3段になって箱のように置かれている。
箱の一つひとつには竹籠が置かれており、中にはタオルやら手拭いやらお風呂に入るのに必要なものが全て入っている。
一番奥のガラスが嵌め込まれた二重扉を開き風呂に向かう仕組みだ。その部屋には壁に鏡が2つ並んで嵌め込んでありその前には銀色の蛇の様な突起をがついている。
それを捻ると水が出てくるのだが、これはどちらかと言うと炊事場に欲しい。
屋敷は洋館風なのだが、その部屋はなんだか別の空間の様に見える。
「いつ見てもこの屋敷のお風呂は独特。さて、ちゃっちゃと入っちゃお」
「こういう作りのお風呂って珍しいの?私は他に小さい時に住んでいたお風呂くらいしか知らないから分からないんだけど....」
キノは冒険者として様々な宿に泊まり、様々な風呂も体験しているのだろうが、エナが知っている世の中はとても狭い。
「こんな作りのやつは他じゃ見た事ないよ?ここを作った人が捻くれているのかな?このお風呂好きだから久しぶりに入れて嬉しい」
キノとエナがデンケンやジルのように小さい時は一緒に風呂に入っていたのだが、キノが12歳で冒険者になってからは週に一回か、2回、多くてもそれくらいの頻度でしか会えない。
しかも、ここ数年は1ヶ月に一回帰ってこられるかどうかであった。
帰ってくるのも決まって夜遅くで次の日の朝早くに出て行く為、じっくり話せる時間はほとんどない。
「こうやって一緒にお風呂入るの久しぶり....だね....」
「そうだっけ? 」
「そうだよ!? 何か久しぶりすぎて恥ずかしいね....」
隣り合って服を脱ごうとしているのだが、エナはモジモジとどことなく恥ずかしいがっていた。
「私は別に何とも思わないけど?」
「え!? やっぱり今は女の姿だから? それとも、自分ので見飽きてるってこと!?」
「だって、治療の時男の体も女の体もエナに見られてるからどちらかと言えば見飽きてるのはエナの方でしょ?」
何の躊躇もなく、何の恥じらいも感じさせずにバッサバッサと服を脱ぎたし湯船へと向かおうとする。
「どちらかというと、私がエナに対して緊張してるから見られるより見る方が恥ずかしい。先に入ってるよ?」
ガラガラとガラス扉を開き中に入って行く。
「そんなこと言ったら私まで緊張しちゃうじゃん!」
その場でじゃが見込み、顔を真っ赤にしながら中々服を脱げないでいた。
しかし、少しすると丸眼鏡を外し慣れていない異世界風の服を脱ぎ丁寧に畳んで竹籠の中に入れる。
人形のように白く透き通っているほどキメ細かい肌が露わになり、手拭いを持ってキノの後を追う。
中に入ると先程よりも広い正方形の空間に出る。両側の壁には10枚の鏡が等間隔で貼り付けられ、その前には簡素な木で出来た椅子。取り付けられた銀の蛇を連想させる長細い管からは火と水の魔石が組み込まれており、先端の幾つにも開けられた穴からはお湯が出る。
床には石を磨いて作ったタイルが敷き詰められており、奥には長方形の石の浴槽にお湯が入っている。壁の端から端までお湯で満たされており、人肌よりも少し暖かい程度に保温されていた。
「やっと来た。先に身体洗っちゃいましょ?今日は色々あって疲れたでしょ?」
声のする方を見ると、左側の壁の中央付近の鏡の前に座り、長い脚を伸ばしながらもこもこ泡立てた泡で身体を素手で洗っていた。
「そんなに石鹸使って、子供みたい....」
「お風呂ぐらい、子供に戻って入ってもいいんじゃない? 案外楽しい」
「ふふっ。考えとく」
フッと掌の上で泡立てた泡に息を吹きかけ、エナに向かってシャボン玉を飛ばす。そんな無邪気な姿に思わず表情が綻んでしまう。
キノの右横に座ると、麻紐で縛られた髪の毛を振り解く。伸びる銀の管に手を伸ばし、魔力を込めると暖かいお湯がでる。下を向き、それを髪の毛に掛けていく。
小さい頃、家で無理矢理覚えさせられた脈々と受け継いで来た秘伝魔法。禁術の代償か、それを拒もうとした呪いか髪の毛は家族で銀色へと染まった。
手で軽くほぐすも、ギシギシと絡まり合い思うように手が通らない。
毎回髪の毛を慣らす作業に時間がかかってしまい、苛立ちを覚える。
しかし、その疎ましい髪の毛を時間を掛けてお湯や石鹸でほぐして馴染ませていく。そうしているうちに段々と体も温まっていくせいかこの手入れの時間は考えようによっては嫌いではなかった。
ある程度髪の毛が柔らかくなり、水を含んで重くなったら手で石鹸を泡立てる合図。両手をお湯で濡らし、先程のキノのように泡を作って行った。
先程は石鹸を沢山使うキノの事を子供っぽいと言っていたが、エナもそれに負けないくらいの石鹸を使っていた。
しかも、いつもより多い泡の量に心なしかはしゃいでいるようにも見えた。
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