第96話 新しい装備
第96話 新しい装備
「この中に契約書をしまってたの? 相変わらず、用意周到だね」
「いや待って。何これ? こんなの入れた覚えないんだけど?」
「え?」
プルエアの問いかけに先程まで無表情だったキノの顔が曇りだす。
「こんなのしまった覚えないんだけど?」
顔を近づけで見て、丸っとした小さめのポーチを拾い上げマジマジとそれを見る。ポーチの後ろにはベルトに付けられるようになっていた。
「お前の新しいマジックバックだとよ。中身がゴチャゴチャしてたし、渡してくれって頼まれた。無くさないようにその中に入れといたから中を見てみろよ?」
「そうなの?」
ポーチ型のマジックバックを開け、手を入れる。マジックバック特有の外側から見る容量に合わない中の広さに驚きながらも、契約書を取り出した。
「中身は無事ね。コンパクトなのはいいけどマジックバックの整理って難しい....」
「そうなの?」
「このバッグの中には仕切りも何もないからみんなゴチャゴチャしてるか、お金持ちなんかは使用人を同行させて種類ごとに持つ人を変えてる」
「だけど、これなら大丈夫だろ?」
そう言って、再び自分の口に指を入れると新しく3つのマジックバックを吐き出した。
「3つのポーチ型のマジックバック?」
「暗器、食料、戦利品、調理道具の4つで分けろだってさ」
「でも、今使ってるやつにも愛着が....」
「お前は、マーケットでの販売を苦行にする気か?」
「え?」
その言葉にキノが思わず聞き返す。
「お前の影に隠れて屋台を見ていたが、みんな手に赤い線が入ってた。慣れない重い荷物を持った証拠だ。マジックバック一つ有れば品の搬入が楽になる上、一定の品質が保たれる。マジックバックの中なら保存に使う塩やスモークチップだって控えめで済むんだぞ?」
「確かに....」
「お前は頭がいい。だけど、自分では案を出しただけで実際の準備はゲルドのとこから持ってきた使用人に任せた。人の上に立つ奴は下の者の苦労を知らないとな」
「うん、分かった。私は新しいマジックバックを使う様にして古いやつは屋台で使ってもらう様にする。それと....」
「ん?」
キンと音が鳴り、ずんぐりむっくりとした図体の真横に黒曜石を鍛えたナイフが突き刺さる。
「色々知ってるね。本当はあの人がどんな人なのか知ってるんじゃない?」
「俺を脅しても無駄だぜ? 俺は修理の時に刻まれた魔法命令式に乗っ取った行動をしてるに過ぎないからな」
「そういう事。取り敢えずありがとう。ありがとう、このマジックバック使わせて貰う」
「はいよ」
ぶっきらぼうに答え、再び体の中にマジックバックを収納する。
「吸収しない様に身体に入れるにも限度があるからな」
「はいはい」
スライムの様に流体状になり、差し出されたキノの掌に乗る。
「ねぇ? あなたさっきはいい感じに収納されてたけどまたあそこに戻るの?」
「いや、完全に出ちまったから戻れはしないな。薄くなってお前の体にでも張り付いてやるよ?」
エナからの疑問に答えると右手首を伝い腕へと侵入しようとしてくる流動的な身体に向かって左手の手刀を振り下ろす。
「痛ぁ! 手首壊れちゃう」
キノの性格に似つかわしくないほどの女の子らしい声を上げ自分の手首を労わる。
「いってぇな!!何すんだ!」
勢いよく手首から吐き出され掌に戻り大きな口だけを身体の中から出し猛抗議する。
「身体を隈なく探られそうで気持ち悪い」
「しねぇーよ! そんな事! それが嫌ならせめて俺の媒介の外套を持ち歩け!」
「休みの日ぐらい仕事のことは忘れたい。エナも自分の体にピッタリと張り付かれたら嫌?」
「嫌....かな。だってなんかずっと全身を触られているみたいでドキドキしちゃう!」
身体をクネクネさせて顔を赤くさせながら頭の中では色々な妄想が繰り広げられていた。
「そんな事しねぇーよ! 少し背中にくっつくぐらいだ!」
「背中!! 自分にはないすべすべとした肌を合法的に堪能するつもりですか!? アサシン装備を付けた時、露わになるキノの背中を触りたかったけど私は耐えたのに!?」
「おい! キノ!! こいつをどうにかしてくれ! 俺の印象が悪くなる!?」
掌から一生懸命上に身体を伸ばし感情を表現しながら訴える。
「あんた、そんな事考えていたの? ちょっと引くわ」
「考えてねぇーよ!?」
「そもそも、エナは何で外套の中の私の服事情に詳しいの? エナの前で脱いで無いのに」
「地下に落ちて密着した時にスルスルっと手が入って触れちゃった」
「ああ、そういう事。なら良いや」
「何でそれは良くて俺の提案は良く無いんだよ!?」
「だって、エナをどうとも思ってないもん」
「酷い!! 私のことどうとも思ってないなんて!? 私はキノに何されても良いんだよ....」
「大丈夫。特に何かをする予定はないから」
「それはそれで酷い〜!! 放置プレイじゃんー!!」
口では残念がっているのだが、表情では愉悦を感じ、楽しんでいるように見える。
「こいつ本当に大丈夫なのか? 見た目はお姉さん風なのに欲望に忠実すぎて怖いんだが....」
「隠し事や心にあったシコリ。それに自分一人で背負っていた事を吐き出せたから楽になったんでしょ?」
一人と異形の者一人が遠く目で見つめる中でも
妄想は一人でに捗っていた。
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