第95話 ホーム
第95話 ホーム
「さて、お二人さん着きました」
ガチャっと扉を開き猿と名乗った男が深々と頭を下げる。
「そう?まさか本当に送ってくれるとは....」
「信用されてなかったんかい!」
キノの言葉に反射的にツッコミを入れる。
「そりゃあ、私のことを投げるような奴は信用出来ない。シルヴィさんだっけ? あの人にもう少し私が信用できる努力家でマシな人をよこしてって言っといて」
「へいへい、善処致しますよ?」
気のない返事を聞き、馬車にくくりつけられた自分の馬を引き連れ屋敷に向かう。錆の付いた機能していない門は開かれていた。
「えっと、一応ありがとうございました」
「二人とも釣れないなー」
エナもそそくさと御礼を言い、キノについていく。
「さてと、慣れない喋り方だと肩が凝る」
肩をグルングルン回し、馬車の座席に腰掛け脚を組む。
「馬車を出してくれエーデル・ベルグ」
そう呟くと扉が一人でに閉じる。
「王子、城への帰還でよろしいでしょうか?」
身なりの汚い若い女性が馬車に近づき馬を操る位置から小窓を開き、確認する。背中はブーメランの様に曲がっているのだが、機械仕掛けのようなその身のこなしは目を見張るものがある。
「王子はよせ。次期国王と呼べ」
「ハッ。その器が有ればいくらでも呼んであげましょう。器があればの話ですがね....」
「中々手厳しいな....これだから、うちの城に勤めている者はどいつもこいつも....」
「権力に萎縮してビクビク過ごすよりも自分らしく接した方がいいでしょう?」
「フッ。全く態度がデカくなったものだ。智の影響だな?」
馬車の窓から外を見る。真っ暗なのだが、思いを馳せるには充分であった。
「あの方はこの国に色々な種を撒きましたからね。その種であるキノ様はいかがです? なかなか気丈でしょ?」
「ふん。全くもって食えないな。いくら異世界からの技術、服、調理技術が入ってきたとは言え、あそこまで異世界に被れてるとはな」
「そう言う、貴方様だって部屋ではジャージやスエットではありませんか? 人の事を言う前に自分のことを棚にあげるのはどうかと....?」
「おやおや、うっかりその細首を絞め殺してしまいそうだ。口は災いの元と言うからな」
「この人形を壊して困るのは貴方でしょ? 今後の企みには一体でも多くの人形が必要でしょ?」
「チッ!! お前も食えないな」
「お互い様でしょ? キノ様も貴方の正体に気付いているようでしたし....」
その言葉に驚いた様な顔をするのだが、すぐさま平静を装う。
「まぁ、妹の友人を兄が送るのもまたいいだろ?」
「そういう事にしておきましょう」
文字通り、夜の中に馬車が溶け込んでいき見えなくなっていった。
「なんかすごい馬車だったね。内側も外側も」
「そう? 普通じゃない?」
あんなにすごい経験をしといて飄々とした顔で馬を引いていき、究極の敷地内に作った馬小屋に入れ、馬具を外す。
小屋にと言っても雨風が防げる簡素なもので藁が敷き詰められている。
「冒険者をやってると感覚って麻痺するの?」
「馬車も凄かったけど、それ以上に衝撃的な事があっただけ」
蹄鉄に付いた土をヘラで掻き出しだしながら横目でエナを見る。
「何それ?」
「気付かなかったの? あの怪しい奴、王子だよ?」
「え!?」
「姿が映し出された奴しか見たことないけど、背格好は同じだし、何より馬車を引く人にしては手首が太かった。投げられた時に手をへし折ってやろうかと思ったけど、太すぎて出来なかったし」
「ちょっと待って!! いつから気づいていたの!?」
「最初から」
冷静さを保った言葉を聞いてワナワナと驚いたよりもなんで教えてくれなかったのかと言う感情が湧いてくる。
「なんで教えてくれなかったの!?」
「気付いていると思った」
あっさりと言い流す顔には余裕があるのだが、エナの顔は引き攣っていた。
「何でそんな身分の高い人が馬車で送ってくれたの?」
「いくら私たちが美味しい物を生産できても誰が作ったのか分からない得体の知れない物は口にしたくない。だから、私たちの事を見に来たんでしょ?」
「そういう事!? どうしよう何も考えないでくっちゃべってたけど、粗相があったら....」
「それはない。やらかしてたらシルヴィさんから貰った契約書を取り上げられるでしょ?逆に粗相をしてもこれだけ持ってればこっちの勝ち」
「なんだか、取られないようにしていたような言い方だけど?」
「現にそうした。権利書出して」
馬の身体にブラシを当て、毛並みを揃えながらボソリと呟く。
「全く、扱いが酷いな」
愚痴をこぼしながらキノの袖からドロっと黒い塊が落ち、20センチ程のずんぐりむっくりとした丸っこい生き物が姿を表す。
「あんたの中なら安全でしょ?」
「吸収しないように身体の中で転がすのも楽じゃないんだけどな....」
キノに聞こえるか聞こえないか微妙な声量で口をネチネチと溢す。
その割にはすんかりと大きく口を開き、何の躊躇もなくずんぐりむっくりとした図体の外套の本体が自分の手をその中に入れてキノが欲しい物をとりだそうとする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます