第25話 楽な仕事と役割分担

第25話 楽な仕事と役割分担


「さて、最深部まては一直線と言っていたが、本当にそうなっているのか?」


 ダンジョン特有の通路に掲げられた松明の明かりを頼りに3人と新入りの一人が進む。先陣を切るのは悪趣味な金ピカの鎧に身んだゲルドが先導する。だが、前衛職っぽいのに獲物は見当たらなかった。


「しかし、いくら踏破済みダンジョンで受け渡しの為に組み替えたとは言え、普通はダンジョンを受け渡す腹いせに魔物を固めて配置しておりたりするもんだがな。ゲルドの崇拝者か、よっぽどのお人好しかのどっちかだな」


 顔が鏡のように反射する銀色の鎧に全身を包んだガジンが欠伸をしながら緊張感のかけらも無いほど緩み切った表情で歩く。ゲルドと同じく兜は被っていない。腰には銀の片手剣が一本刺さっているのだが、戦士をタンクたらしめる大楯は持っていない。


「でも、マジで一直線みたいよ?見て、1番奥の部屋まで楽に行けそう」


 さっきまでは被っていなかった黒い魔女を連想させる大きな帽子に、黒いタイツに紫色の膝上までの大胆な丈で肩だしのミニスカの魔女のドレスに新品の白い宝玉が柄にはめ込まれた指示棒のように小さな杖を握っていた。


「楽な事に越したことはない。だが、気軽を体現したようなダンジョンだが新入りはその限りでは無いようだな」


 3人が後ろを見ると、脚をすっぽりと覆い隠す茶色い外套に巨大なパックバックを背負ったユエルが首から下げた菱形の赤い宝石を右手で握り締めながら息を切らし歩いてくる。


「何やってるの新入り!!?そんなんじゃあ、最深部に着くまでに火が暮れるよ!それに、そんな荷物絶対要らないでしょ?説明聞いてた?」


「ダンジョンは何が起こるか分からないんですよ!皆さんが携帯食料も野営道具も持っていかないから私が四人分背負ってるんですよ!早く進みたいなら自分の分の道具ぐらい持ってください!」


 嫌味ったらしくいびってくる先輩魔法使いに負けることなく正論を言い返す。


「だったらいいや。別にゆっくり行ってもいいし」


 そう言っている間にプリーストが追いついた。


「どれだけ重い荷物持ちたく無いんですか!?」


「マニュアル通りの踏破手順は知っているようだが、このパーティでは無意味だな」


「何故ですか?やはり、実戦には本の知識では知り得ない経験が?」


「いや、重い荷物を持つ必要がある時は使用人を連れてくるってだけだ」


 目を光らせてリーダーから始めて叡智を授けてもらえると思いきや、人として屑の回答が返ってきた。


「まぁ、そう言う事だからここに大荷物置いていけば?」


「駄目よ!一度持ち込んだなら出る時までしっかりと持ち歩かなきゃ。って事で私たち3人は先に進むからその重い荷物を持ってきなさい!」


「はい...分かりました...」


 優しく声を掛けるガジンを強くプルエアが言いくるめると一人でにダンジョンの先へ進む。


 思っていたよりも厳しいその口調にどうすればいいのか男性人が狼狽えていた。


「何してるの?新入りちゃんが頑張っている癖に、男二人は前方の安全を確認しないつもり!?」


「だったら、やっぱり重い荷物持ってあげた方が...マジックバックとは言え、完全に魔力が切れてかなり重そうだし...俺はタンクで力あるし...」


「もう一度怒鳴られなきゃ分からないの!?さっさと来なさい!」


『『はい!』』


 その鬼とも形容できる様子に気押されながら急いで男二人が走っていく。


「プルエア、今日機嫌が悪いようだが何があったのか?俺でよければ相談に載るぞ?」


「はぁ!?別になんでも無いし!早くいくよ!」


 ゲルドからの提案も虚しくツカツカとそこの高い黒いヒールに力を込めて勇みながら歩く。


「多分、あれですよ、アレ」


「魔法探知石か」


 ガジンがユエル首から下げられた赤い菱形の宝石を手で指す。


「罠探知なら、魔法使いの私のジョブスキルである『探査』を使って歩いてるんだから掛かるわけないでしょ!?私の腕を疑ってるのかしら?」


「プルエアさんの『探査』の魔法を疑ってるわけじゃありませんけど、これは自分に降りかかる魔法じゃ防ぎ用のない小さな魔法力学的な物にも反応するんですよ!」


「はいはい。私が先頭を歩いている時点で、私の『探査』を抜けてくる時点でこのパーティは全滅でしょうけどね」


 カチリ


 慢心に満ちた顔で大きく一歩を踏み出すと何かを踏んだ。それが罠のスイッチだと気がつくには然程時間は掛からない。


 基本魔法は誰しもが使え、他には人や一族によって決まる固有魔法と冒険者として細かい職に就くために必死に覚えなければならない職業魔法が存在する。


 職業魔法というのは、基本魔法を更に煮詰めその職業の体現として現れた物で火を吐くなどの超人的な物ではない。


 中には道具を使い、その限りでない物もあるのだが、適正だったり才能や血筋に大きく左右される。


 職業魔法が使えなくても専門スキルを身につければなれる職業も存在するが、大きな欠陥を持つ事が多く、なることじたい毛嫌いされる。アサシンもその中の一つだ。


 魔法使いとして認められる為に身につける『探査』の魔法は基本魔法の『探知』とは性質が異なる。狭い魔法的な現象に対して反応するのが『探査』であり、広い物質的な現象に反応するのが『探知』である。


 ここはマッピングが全て済んだダンジョンであり、気にする必要があるのは地形ではなく作動していない魔法でダンジョンによって作られた罠。その為、『探知』の基本魔法は誰一人として使用していない。


「何か踏んだんだけど?何これ?」


 体に見合った小さな足をどかしてみてみると、周りと比べ陥没し、床が人工的に作られたスイッチの様に見える。


「どうした?でも踏みつけたのか?ブーツに付いた魔物の糞は中々落ちないから災難だな」


「違うわよ、この銀禿げ!これ見て、何かのスイッチみたいじゃ無い?」


「見せてみろ?」


 銀禿げと今まで言われたことがない様な最上級の貶し文句にガジンが傷付きながらもガルデが覗き込む。


 その瞬間、何の脈絡もなしに後方を歩いていたユエルがプルエアの背後から思いっきり抱きそのまま地面に押し当てる。


「ちょっとな...」


「前!」


 不機嫌そうに頭を上げようとするプルエアの後頭部を押し付け地面に沈めると短く叫ぶ!


 その一言にガジンが膝を地面に着き、手を顔の前で交差させる。


「強壁!」


 鎧の胸部から白い光が溢れ出し体を覆い尽くす。


 通路の奥から大量の矢が通路を埋め尽くす程パーティに降り注ぐ。


 ガジンの鎧に当たると地面に落ち、後ろに入った三人に矢が降り注ぐことはない。


「ガジン!セットしたぞ!」


「このまま前進する発生源を探せ!」


 銀色の鎧に背負ってあった鎧を取り外し魔法使いとプリーストを矢の雨から守る様に地面にゲルドが刺す。


 そのままガジンが前に進む。その真後ろからゲルドが姿勢を低くしながら付いていき目をあらゆる方向に動かした。


「強視!」


 目の周りが火をつけたかの様に感じる。細い血管までもが熱を持ち、通路の奥では紫色に光を帯びた何かを、視界で捉えた。


「見えた!通路の奥に何が置いてある!ガジン進むのはそこでいい!」


「早くしろ!『強壁』で装備を強化しても耐えきれん!強力な想いが込めらている!」


「プルエア灯を飛ばせ!正確にな位置を光で照らせ!」


「わかっだわよ!」


 地面に顔面を強く押し付けられたせいで両鼻穴から血を流しながらも赤い魔石を握った手を開き前に出す。


 拳ほどの灯りが押し出されそのまま前方に飛んでいく。


「強脚!」


 ゲルドの下半身の鎧が白い光に包まれる。脚が上半身を置いてきぼりにし、猛烈なスピードで脚が交互に出される。


 のけ反りながら走り出す姿はなんとも無様なのだが、抜群のセンスで矢の間を走り抜ける。


 通路の途中の四角いダンジョンの通路。その四隅には魔物の骨で作られた作られた4つの小型のクロスボウが壁を滑り様々な角度から矢が射出されていた。


 通り過ぎ際に下と右横を通ったクロスボウを破壊し、静止する。足からは湯気が登り反動でしゃがみ込む。


「あと二つ!」


 重い体に力を入れ、振り向く。そこで一つの違和感に襲われる。クロスボウの先が通り過ぎた筈なのに、矢の先端がこちらを向いている。


「ゲラゲラ!」


 骨でできたクロスボウに一つ目が浮かび上がり、ニッカリと不出来な口が笑う。


 今までよりも遥かにデカい矢がゲルドに向かって放たれる。


『クソ、反動で動けん!』


 眼球目掛けて2本の矢が向かっていく。


 矢に貫かれる事を覚悟した瞬間、呆けた口の中に大楯が突っ込まれ後ろに吹っ飛ぶ。


『ゲ?』


 何が起こったのか理解できないままクロスボウが巨漢の男の手によって捻り潰される。


『よう?平気か?』


『取り敢えずは、タンクの意味を成さないお前のボロくなった鎧よりはマシな筈だ』


『顎が外れそうになっているやつに言われたくないな。お前の身体に乗っている大楯をどかしてやるかは俺の匙加減なんだがな』


『それと、プリーストを連れてきてくれる?無理に鎧を動かしたせいで身体中が軋んでる』


『それが、あっちもあっちで取り込み中みたいでな...今は呼ばん方が良い...』


 そんな事を話していると大きな声で泣きじゃくる声が聞こえてくる。

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