第22話 組み替えと口車
第22話 組み替えと口車
部屋の主に掛けた外套が静かになり、消化を終え主人の元に帰る。
「フゥ、結構腹に溜まるな。だけど、解体しなくて良かったのか?骨とか金になりそうだが...」
「ダンジョンから物を持ち出すは冒険者ギルドから正式に依頼を受けた時しか持ち出せないの。流石に、さっきみたいに自分で食べる物に対しては規定がないけど」
「魔物を食べる奴なんて物好きだけでごく少数だから規定されてないんだろうな...だが、中々面倒くさいな」
「仕方ないでしょ?ダンジョンから何でも持ち出せたらどうなる?」
「魔物が作った武器や防具が一般流通し、市場価値を壊しかねないからだろ?奪うだけでものが手に入る。実質素材費がタダで一定の質なら大量に売って下手な職人よりも稼ぐことが可能だからだろ?」
「あ、そう言うことなんだ」
「知らなかったのかよ!」
そんな馬鹿な話をしているうちに部屋の中央から六角形の透明な台座が腰の高さまで迫り出して来る。
身なりを整え、フードを下ろした状態でそれに近づいていく。
「なんだあれ?何か地面から出てきたぞ!」
「あれは記録水晶。これに羊毛紙を被せて使うんだけど、ダンジョンの攻略者の名前の印字やダンジョンがの譲渡を行う。こんな風に」
一枚の羊毛紙を被せて、命令を出す。
「ダンジョンの攻略者名とボス部屋に降り注いだ金貨の枚数を印字して」
返事の代わりに指示した項目が黒い文字で印字されていきダンジョン攻略者の欄にはキノと言う言葉が刻まれていた。
「ほう、これは便利だな」
「これがダンジョンを踏破したって証明。これを所属しているギルドに持っていけば、お金の回収をしてくれるんだけど、私有地ダンジョンの場合はこれを私有者に渡して報酬を貰う」
「癪だな」
「ある程度の報酬は貰えるけどね。後は私達が帰るための道を作ろう」
「道?自動で帰れないのか?」
「そんな便利な魔法、高値で売られてる魔導書が無きゃ使えない。踏破者したら一度だけ決められた地点から外に出られるからそれで」
「魔導書?」
「魔法の命令文が書かれた本の事。魔力を込めて祝詞を読むだけで発動する」
台座に触れると現在のダンジョンの通路やら魔物の位置やらが眼前の空間に広がる。
「なんだこれ!?」
「空気を固めて映写機みたいにマップを表示してるの。記録水晶のこの機能便利なんだ」
水晶に触れてダンジョンの通路をパズルの様に動かす。魔物の反応がある部屋に向かう通路を取り外し最深部に繋がる通路に足して入り口までを直線で繋いだ。
「これ?ダンジョンがとして成り立つのか?誰でもきてくださいって感じだぞ?」
再編成されたダンジョンを見ると入り口から最深部までが直線で結ばれ、島の様に孤立する魔物が入った部屋にはたどり着けない様になっていた。
「大丈夫。ボスも弱い魔物には置き換わるけど、部屋を出て魔素が充満すれば新しく存在するし、最低限の働きはこなす」
そんな無責任な言葉を吐いて部屋を後にするのだなら大雑把と言うか雑と言うかなんとも言えない。
「さて、外に出ようか。この権利書をできるだけ高く売りつける。後、念のために、譲渡の証明書も欲しいな....」
「業務的なんだな。そんなに搾取されちまうのか?」
「さぁ?どうかな?今言えるのはダンジョンの外に居る顔馴染みがどんな顔をするのかが楽しみ」
最深部の一つ手前の大部屋にマジックバックから一枚の羊毛紙が巻きついた取り出した試験管のコルク栓を抜き、地面の煉瓦の間に入れるとストンと落ちていく。
「なんだそれ?」
「別に?ただの、ヘビードドラゴンの卵が入った試験管」
その一言と共にダンジョンの入り口へと戻り、バカの様に口を大きく開いたゲルドと再会した。
「なんでお前がこんな所から出てくるんだよ?索敵か!?」
薮から出てきた蛇を睨みつける様に口早にキノに向かって高弁を垂れる。
「これ何か分かる?」
溜息を吐く様に下されたフードの中から一枚の羊毛紙を取り出した。そこに書いてあるダンジョン踏破者の名前を見て驚きを隠せない。
「お前がボスを倒したのか!?アサシンなんて火力もない職業で!?」
「コソコソダンジョンを探索するのは飽きた。私もダンジョンを踏破しようとしたら丁度このダンジョンにありついた。私有地ダンジョンの踏破ならギルドからの許しもいらない」
「それはそうだが、参加費はどうした!?」
「ちゃんと払った。私はこのダンジョンに見合う成功報酬が欲しいだけ。だから、私に報酬を早く払って」
「分かった。踏破者には7000万エールを...」
「そんな端金が報酬?」
「端金だと!?これは今回一人当たりの正当な報酬額で....」
「そんなつまらない事聞いてない。参加する時に貼ってあった紙に書いてある通りの報酬を払ってって、言ってるの」
「だから!7000万エールを...」
「分からない坊ちゃん。一人で踏破したんだから、フルレイドメンバー全員に支給しようとしていた56億エールを払って言ってんだよ」
その暴君さながらの一言に声を飲む。
「はぁ!?自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
「私は正当な報酬額が欲しいだけ。別に払わないならいいんだよ。周りに住む人に無理な土地代を払えって言って実質的な立ち退きを迫っているところを見るとさぞかし有効な活用をしようとしているこのダンジョンが私のものになるだけだから」
「くっ!」
今にも血が出そうなぐらい強く唇を噛み締める。
「ゲルド様、あの人は一体何者なんですか?」
フラフラと一通りの治療を終えたが、包帯だらけの姿で小さな声を出すハートンがゲルドが近づき耳打ちをする。
「あいつはキノ。鍵開けしか脳の無いアサシンでつい先日まで俺のパーティにいた奴だ」
「え?嘘?俺も何回か会った事ありますけど、あんな雰囲気でしたっけ?」
「少なくとも、一人でダンジョンを攻略できるほどの力があったなって知らない。いつも、パーティの後ろで目立たない様なやつだったからな」
「ねぇ?コソコソ話してないで早くお金払ってよ」
二人のやりとりを毅然とした態度で見下すその姿は平民だとは思えない。遥かにキノの方が身分が高いと錯覚させる。
「キノさんでしたっけ?貴方は一つ勘違いしています」
「勘違い?ハートンだっけ?」
「名前を覚えていて下さって光栄です。そう、大きな勘違いをされている。私達が今回フルレイドメンバー上限80名で挑むと言っていましたが、今回は20名で挑む手筈でしたよ?だから報酬は20人分で14億エール。確かそうでしたよね?」
「ああ!そうだ。14億エールだ!それで良いだろ?」
「本当にメンバーが20名だけなら仕方ない。それでいいよ」
ホッと、ゲルドが胸を撫で下ろす。80人分の報酬をキノに払い怪我をした冒険者を含めた全員の冒険者に最低限のお金を払うよりも、メンバーを偽った方が遥かに安く話が終わる。
いくら貴族とはいえ、そこまでの金は持ち合わせていない。今後この辺りで新たな事業を始めるとしたら尚更だ。
「それが本当の話ならね。このダンジョンを20名で攻略しようとしていたって証拠を見せて?」
「証拠?そんなのテントの中で治療を受けている屈強で勇ましい冒険者の姿を数えればこと済むだろう?」
「事済まないから言ってんだけど?どう見ても20名以上いる」
「実はですね。あの方達はこのダンジョン攻略の為に用意されたフルレイドメンバーではなく、傷付いた者を癒す為の人員なんです!ですよね!?」
「あ、ああ!そういう事だ。だから20人だ!」
苦し紛れに咄嗟にそういう事にして帳尻を合わせるのだが、キノの眼光がより一層鋭さを増す。
「フーン。そうなんだ。じゃあ、私はもっと信憑性の高い証拠を呼ぶよ」
「はっ!好きにしろ。なんと言われようが、奴らは我が家きっての回復魔道士なのだからな!」
バレる筈がないと思っているのか、急に強気になる。
「受付のお姉さん~!」
「はーい!」
ひょっこり現れた受付管理を行なっているお姉さんが受付を行う小屋から出てきた。その手には赤い革の分厚い台帳が抱えられ重さでフラフラしながらやってきた。
「お待たせ致しました!入る時に小声で頼まれたご注文の品をお持ちしました!」
「何だこれは?」
「おや、これはギルドに圧力を掛けて私を買い取り無理矢理ダンジョンの管理を行わせているゲルド様ではありませんか!」
「何だその態度は!?無礼にも程がある!」
「チッ!」
今までニカニカと笑顔だった受付嬢の女性の顔に翳りができる。
「グチグチうるせ~な!!金で何でも解決できると思ってるボンボンがよ!どうせ、パパのお金で楽してんだろ?汚い金で作られた食事をしてるからお前の口から喋るたびに臭い息が出てるんだよ!黙ってろ!」
サイドテールを雑に下ろし、ボサボサになった髪の毛でこれ以上は思いつかない罵倒を雇い主である筈のゲルドに浴びせる。
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