第4話 異世界生活

森を抜けて綺麗な湖のある場所に出た。

湖のほとりには草花が生えている。

周囲に獣の足跡などは見当たらない。


草花があまりないところに立ち、アオイは唱えた。


「アースレベリング!」


MMORPGで使用していた非戦闘用魔法。

いわゆる生活魔法というやつだ。


ゲーム内で、自身の土地を整地する時に使用する地属性の魔法だ。


草や岩などを排除し、縦横5メートル程度の平坦な地面を作る。


「次は……。ストーンウォール!」


整地したところを囲むように、地魔法で石の壁を作る。

窓や細かな間取りは後回し。


「後は屋根か……」


剣を抜き、一番手前の細い木を斬り倒す。


剣術スキルのおかげで容易に斬ることができた。

そしてサクサクと斬りつけ、円形の細木ほそぎを角材にする。


片側の石壁を高く。

片方は少し低くする。


石壁の高さが全て同じだと、地面と平行に角材を乗せることになる。

平らな屋根は、雨や雪が降った時に重さでつぶれてしまうかもしれないと考えたのだ。


角材にくぼみを作り、その窪みにように高さの違う石壁の上に敷き詰めれば、片流れ屋根の完成。


上空から森と見分けが浮かないようにするために、角材の上に葉の付いた枝を敷き詰める。

そして木を削って作った釘で、枝が落ちないように固定しておく。


どのくらいの時間がたったのだろうか、今が何時かもわからない。

頼りになるのは日の光と腹時計だけだ。


「改めてみると不思議だな……」


空を見上げると太陽の役割の惑星が1つと月のような惑星が2つ。


「ここまでの設定はゲームにはなかったな」


ゲームと違い汗もかく。

温度も感じる。

きっと天候や季節の移り変わりもあるだろう。


桜が舞ったり雪が降ったりするゲーム内のエフェクトではなく、実際に季節を体感することになる。


今が春先程度の気候。

いずれ雨期や猛暑、豪雪などに見舞われるかもしれない。


「そうなる前に生活環境を充実させておかないとな」


残った角材を整地した地面に敷き詰め、床を作った。

そして、角材と木の釘を生かして簀子すのこを用意した。


「よし。問題はここからだ」


なんでも魔法で解決するわけではない。

布団になるものを作らなくてはならないのだ。


暫くは床で寝ることになるだろうが、なるべく早くに敷布団だけでも用意したい。


「となると鳥とか獣とか……」


ハマっていたMMORPAGには動物が存在せず、モンスターばかりだった。

獰猛で気性の荒いものも居れば、家畜として飼える温厚なものも居た。

この世界がどうかは未知数だが、ゲームと同じであれば目星が付く。


「フェザーバードかフェアリーウールがいればいんだけどな……」


それぞれ毛の多い鳥型と羊型のモンスターだ。

ゲーム内の討伐した時に入る素材は、上質な寝具や防寒着などに使用されていた。


「とりあえず森に入るか」


食料の確保にもなるため一石二鳥。

森に入り、寝具と食料となるものを探すことにした。


「怖さ半分。楽しみ半分だな」


森の中を歩く。

この世界に来て何時間が経ったか分からないが、未だエンカウント無し。


ゲームの醍醐味は素材集めと物作りだった。

初心者向けの装備をどこまで強くできるのかを試し徹夜。

ドロップ率0.001%の希少素材を手に入れるために強敵を狩りまくる。


ハント&クリエイト。

気が付けばハイプレイヤー。

いや。

廃プレイヤーと言うべきかもしれない。


ゲームと最も異なるのはスタート地点。

ここがどこで、どんな敵が居るのかも分からない。

迷わないように目印をつけながら森の中を歩く。

危険察知のスキルには何も反応しない。


「ん?あれは……」


変わった草の群生地を見つけ、思い出す。


「鑑定スキルあったよな……」


鑑定

回復草かいふくそうレア度:7】

・非常に魔素マナの濃い回復草。


見ようと目を凝らすと草の上にメニュー画面に似た表示が現れた。


「おお~!そうそう!こういうの待ってた!」


アイテムには1から10までのレア度がある。


レア度1~3で下級ポーション。

レア度4~6で中級ポーション。

レア度7~9で上級ポーション。

レア度10で最上級ポーションが作れる。


下級であればHPが100~150程度しか回復しなかったが、上級ポーションであれば1700~2000程度の回復ができた。


現実に置き換えれば大怪我も治るはずだ。

この先何が起きるかわからない。

今のうちに集めれるだけ集めておこう。


茎を持って引っ張ると、根が切れることなく綺麗に抜けた。


「えっと……。アイテムボックスは……」


鑑定スキルの時と同様に何故だか分かる。

恐らく直感スキルが働いてるのだろう。


手に取った回復草を何もない空間に、入れるように動作すると消えた。


「便利だなぁ」


さらに、ステータス画面を開き、ユニークスキル欄にあるアイテムボックスの文字に触れると、アイテムボックス内にある物の名前や数が表示される。


ゲーム通りであれば、アイテムボックスの中身は劣化せずに保存されているだろう。

実際にスキルを使ってみて実感した。

鑑定とアイテムボックスは相当なチートスキルだ。


「どんどん使おう。特に鑑定」


今まで使用していなかったが、それ以降ことあるごとに鑑定を使用。

見つけたものは全て採取した。


猛毒草、解毒草、麻痺の種、爆炎草。


さまざまな素材が手に入った。

どれも今後に使えそうなものばかりだ。

心が躍る。

そして忘れていた。


「いかんいかん。僕は寝具の素材と食材を探しに来たんだ」


この地形ではフェザーバードもフェアリーウールも居ないかもしれない。

フェザーバードが飛ぶには木々が多すぎるし、フェアリーウールが生活するには足場が悪い。


何か代用できるものはないのだろうか。

それから少し歩き探したが見つからない。


諦め拠点に戻ろうとした時、風が吹く。

思わず目を細める。

そして風が止み、前を見るとそこには何者かが立っていた。

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