第3話 状況確認

暖かい光が差す森の中。

鳥のさえずりで目を覚ました。


「ん……んん……」


目を開け、周囲を見渡す。

見慣れない木々。

ぼんやりと経緯を思い出す。


「そうか……。本当に転生したんだな……」


立ち上がり、身体を見る。

麻のような少しごわごわした服。

柔軟性はない硬めのズボン。

硬い革の靴。

腰には剣。


良い感じにオンラインゲームの初期装備のような恰好だ。


身体を見渡すが、腹回りの肉がない。

体型も整っているようだ。


近くで川の音がする。

移動し、水面を見ると爽やかな青年が映っている。


元々と同じ黒い髪に黒い瞳。

補正をかけてくれたのかイケメンと言っても良い顔立ちだ。


「好青年って感じだな」


30歳を過ぎた前の身体とは違い、気だるさも疲れもなく、動きやすい。

気分が上がる。


「確か念じれば良いんだったな……」


転生に際して、少しだけ女神エマーテルが教えてくれた異世界知識の一つ。


ステータスオープン


そう心の中で念じると、見慣れたウィンドウが現れた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【アオイ 人族♂ 職業:旅人 15歳】

Lv:1

HP:1500 / 1500

MP:1500 / 1500

SP:1500 / 1500

筋力:700  攻撃力:800

耐久:600  防御力:630

知力:580  魔力 :580

抵抗:500  抵抗力:510

敏捷:500

器用:400

幸運:7777


【加護】

女神エマーテルの加護


【ユニークスキル】

アイテムボックス、鑑定


【スキル】

剣術Lv3、体術Lv3、忍耐Lv10、料理Lv4、話術Lv5、直感Lv3、危険察知Lv3、

水魔法Lv1、火魔法Lv1、風魔法Lv1、氷魔法Lv1、雷魔法Lv1、地魔法Lv1、闇魔法Lv1、光魔法Lv1、支援魔法Lv1


【適性】

水10、火10、風10、氷10、雷10、地10、闇10、光10、


【称号】

女神エマーテルのお気に入り


【装備】

鉄の剣、旅人の服


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「名前……。変えてくれたんだな……」


ドハマりしていたMMORPGで使っていたキャラクター名だ。


人生をやり直せるように名前を変えてくれたのだと女神の心遣いを感じた。


ゲームと同じなら、Lv1の人族にしてはかなりの高ステータス。

しかも15歳の成長期。


「旅人か……。なら基礎の魔法は一通り使えるな」


職業によって取得できるスキルや魔法は異なる。


旅人は中級や上級の魔法は使えないが、全ての初級魔法が使える。


試しに適性欄の水を押してみると『ウォーターボール』という初級魔法は白字で表示されるが、上級魔法の『タイダルウェーブ』は黒く表示されている。


他にも、旅人にしては、スキルレベルが高いものがある。

前世で得た経験を反映してくれているように感じた。


「全属性の適性が最高値……。凄いな……」


適性の高さは、そのまま取得できる魔法レベルの最高値に影響する。

おそらく魔法に特化した職に転職できれば、最上級の魔法も使うことができるだろう。


好条件どころか超絶チートステータスだ。


「あれ……?」


転生時に選んだ加護は3つ。

それらは書かれておらず『女神エマーテルの加護』とだけ書かれている。


気になり詳細を表示した。


【女神エマーテルの加護】

・幸運/健康/早熟。

・テルセニアでの言語取得。

・寝てる時たまに夢に出てくる。


「言葉に苦労しないことは嬉しいな。それに夢で会えるんだ」


なんともアバウトな記載に和む。

張り詰めていた気持ちが緩み、自由を手に入れたことを実感する。


一面に広がる大自然。

澄んだ空気。

透き通った川の水。

胸いっぱいに感謝の念を抱き、少しの間、祈りを捧げた。


「ありがとうございます。いつでも夢に出てきてくださいね」


そして、状況を確認していく。

手で川の水をすくい飲む。

加護のおかげで状態異常にはならない。


「飲みやすい。人の手が入っていない証拠だな」


湧き水のように飲みやすく、臭みもない。

都会暮らしからは想像のできない自然の綺麗さだ。


「とりあえず周辺も確認しておこう」


一番近くにあった背の高い木のてっぺんまで登り、周囲を観察した。

より高い木や岩山があり遠くまでは見えないが、建造物は見当たらない。


遠くの方に鳥らしき飛んでいる生き物が見えた。


「まるで白神山地しらかみさんちだな」


壮観な大自然。

城や街などは見当たらない。


「ここまで自然の中に放り込まれるとはね」


人里話されたところにしてほしいと言ったものの、勝手に都会田舎とかいなか程度の所を想像していた。


普段は田舎に住み、少し行けば街がある。

そんな都会と田舎を味わえる暮らしを想像していたが、田舎暮らしどころかサバイバル生活だ。


普通であれば絶体絶命のはず。

しかし、忍耐Lv10のおかげか心躍っているからか動じない。


「まぁなんとかなるだろ」


飲み水は確保できてる。

後は寝床と食料だ。

慌てる必要はない。

社会や家族といった足枷が外れた。

通常であれば困難に見えるこの状況ですら幸福を感じる。


「さて……。どうするか……」


様々なことを思案する中で、先ほど木の上から見渡した時に、木々がない部分があったことを思い出した。


方角は川の上流。

木々で見えなかったが、ひょっとすると湖があるかもしれない。

そう思い移動することにした。


木々に囲まれていると奇襲を受けやすいし、獣の接近に気が付きにくい。

ゲームの世界に近いならモンスターもいるはずだ。

安全を確保するには開けた場所のほうが良い。

見つかる可能性も高まるが、先に見つけられる可能性も高まり奇襲を受けにくい。


川に沿って上流へ向かう。

時折川を覗くと型の良い魚が見える。


「釣りもしたいな」


昔は良く魚釣りをしたり、素潜りをしてもりで魚を突いた。

そして、その場で捌いて食べたり、獲った魚を餌に、より大きな魚を釣ったものだ。

久しぶりのアウトドアに心を躍らせながら歩みを進める。


不慣れな木の根が這う地面。

時折道を阻むように生い茂る草木。


1時間は歩いただろうか。

やっと森の終わりが見えてきた。


木漏れ日を抜け、光に満ち溢れた景色に出る。


「綺麗だな」


そこに広がっていたのは草花と湖。

まるで楽園のような光景に、思わず心を奪われる。

迷わずにここを拠点にすることを決めた。


「まずは寝床の確保だな」


寝床の確保。

どうせならある程度の生活水準は確保したい。


家にベッドに風呂にトイレ。

机や椅子などの家具も必要だ。

食料は魚が居るから、とりあえずは困ることはないだろう。


「よーし。やるぞ!アオイとして人生の再スタートだ!」


やることは多いが時間もたっぷりある。

頭の中は楽しみとやる気で満ち溢れていた。

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