第4話 変わってしまったあの子
高校生になってからというもの、いつの間にか俺は麗華との距離を感じるようになっていた。別にお互い避けているというわけでは無くて、その原因は恐らくただ単に、お互いの接点が無くなってしまったからだ。昔は何も考えずに、ただ楽しいという感情に身を任せて無邪気に遊んでいたが、成長して思春期を迎えた男女には自然と心の距離が生まれる。これは、男子と女子での身体の発達時期が異なるように、人それぞれだが男女の心(精神)の成長する時期が違うということに基づくものだ。
しかし、湊斗たちにとってはそうした複雑な理由よりかは、それぞれ忙しくなってあまり関わる機会が減って、気がつけば少し距離ができてしまったといった所だろう。
「しろ、次の授業は移動教室だね」
「あ、そうだね。わかった。そ、それじゃあ一緒に行く?」
次の授業は家庭科で今日は調理実習の日だった。そして、幸運なことに湊斗は心白と同じグループだった。ちなみに一班 四人で構成されているため、そのなかで一緒になれたのは、なかなかに運がいいと思う。
「そうだね、俺たち付き合ってるもんな」
気がつけば、心白は学校でも湊斗といっしょに居たいと思うようになっていた。それは心白だけが思っていたことではなかったようで、湊斗もできることなら、心白と学校で過ごす時間を共有したいと思っていた。
「なんだか学校でも一緒にいると、本当に私たち付き合ってるんだ。って感じがして、なんだか少し恥ずかしい.....かも?」
頬を赤らめてそんな可愛らしいことをぽつりと呟くので、不覚にも湊斗の心臓はトクンと跳ねた。
「でも、これが付き合うってことだと思うんだよね」
この人ともっと一緒にいたい。この人をもっと
「そうだね。でも嬉しいな、こうしてみーくんの彼女になれて」
それは心白の素直な気持ちだった。なので、湊斗もそう一言。素直な気持ちで返した。
「うん。俺もだよ」
「えへへ、それじゃあ行こっか」
教室でふたりで話していると、もうすでに他のみんなはどうやら調理室に向かったようで、気がつけば湊斗と心白のふたりきりになっていた。
「あ、ほんとだ。あと少しで授業始まるね、少し急ごっか」
そうして教室を後にするふたりだったが、調理室に向かう途中で少し先にふたりのよく知っている女子生徒が見えたので、心白はその子に話しかける。
「あっ、れいかちゃ--」
“スッ--”
「えっ、.....」
しかし声をかけたものの、その女の子が足を止めることはなかった。
「れいか.....」ボソッ
それを隣で見ていた湊斗は思わず彼女の名前が口からこぼれた。
「ちょっと一ノ瀬さん、なんでそんなに急いでるの?」
「一色くんはちょっと黙ってて、」
足早に歩く彼女の後ろから、同じクラスの生徒と思われる容姿の整った男子生徒がついて行く。
「れいかちゃん、なんだか高校生になってから変わったよね.....」
「あ、あぁ.....」
彼女こと一ノ瀬 麗華は、きっかけが何かは分からないが、湊斗と心白の知っているような女の子ではなくなってしまっていた。
(なんでいつも何かに追われてるように、そんな張り詰めた顔をしてるんだよ...)
一ノ瀬麗華をこの征華学園で知らないものは恐らくいないだろう。別に何か悪い噂があるわけでもなく、ただ定期考査では毎回首席というずば抜けた頭の持ち主だし、その特殊な瞳とそれにも劣らぬ大人っぽい美しい容姿をしているので、嫌でも目についてしまうのである。
ちなみに今彼女の隣にいる男子生徒は、一色稜真といい、彼は麗華に次いで毎回次席なのである。噂によると、ふたりはライバル関係でもあり、仲の良い恋人とも言われている。
それは、ふたりのクラスが同じ二年二組ということもあるし、どちらも生徒会に入っているので何かと関わる機会も多く、ふたりのモデル顔負けの容姿からしても、あのふたりはお似合いと言う人も少なくない。
「でも、れいかちゃんが大丈夫ならいいんだけど.....」
そんなことは、麗華の張り詰めた雰囲気からしても、湊斗と心白は今の麗華が危うい状態にあると分かっていた。分かっていながらも、何かから目を逸らすように。あるいは、今のふたりの恋人という尊い関係を守るために。
生き物は本能で身の危険を察知し、それから避ける習性がある。だからこれは悪いことではない、誰からも責められるものではない。
そう自分に必死に言い聞かせて、ふたりは静かに目を瞑った--
クールで真紅な一ノ瀬さん サンイヌ @Saninu117
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