第2話 久しぶりなこの場所も昔と変わらず
「久々に来たけどここも変わらないな」
「私たちの幼い頃の思い出が詰まってるから、なんだか嬉しいですね」
「うん。この辺りで俺とれいかと、しろの三人で一日中よく遊んだよね」
湊斗と心白は土手の斜面に腰を下ろして、よく三人で遊んでいた以前となんら変わらない景色を見て思い出話をする。
「そうですね笑 れいかちゃんはいつも元気で一緒にいて楽しかったです」
「れいかは確かに疲れたなんて言ってた覚えがないもんなー笑」
「そこの草むらで遊んでた時に、私は気づかなかったんですけどれいかちゃんに、こはくちゃんの背中に虫付いてるよって言われた時は、心臓が口から飛び出ちゃうんじゃないかってくらいびっくりしたんですよ笑」
「あー、それでしろの悲鳴が聞こえてきたから、俺も何かふたりに起こったのかと思ってかなり焦った覚えがある笑 結局急いで駆けつけてみれば、背中に虫が付いてただけってのは流石に
「すいません、あの時はご迷惑おかけしました笑」
「でもふたりが無事で本当に良かったっていう安堵の気持ちが一番大きかったかな」
湊斗からすると、自分にはどれだけ迷惑を掛けてもらっても構わないし、心配を掛けたとしても、ふたりが困っているのならいつでもこの手を差し出すし、何より無事ならそれ以上のことはどうだってよかった。だからあの時も特に心配させるなとも言わなかったし、もちろんそれは今でも変わることは無い。
「湊斗さんは優しいからね笑」
「あのさ、しろ」
「はい。どうしました?湊斗さん」
急に名前を呼ばれたので、何かと思う心白。
「いやー、無理に変えろとは言わないんだけどさ。俺たちあれから何年振りかってくらい久しぶりに再会できたじゃん?」
それは、まだふたりが中学三年生だった時に、久しぶりに再会した日のことを指す。
「はい。あの時は流石にびっくりしました」
「それでさ、数年ぶりに再会して一年が経ったけど、やっぱりしろのその口調は慣れないや」
それは心白の丁寧で上品な口調がどうしても昔は仲良かった湊斗からすると、違和感でしかなかった。
「あー、そうですね...」
実はこれには
そしてもうひとつの理由としては、湊斗と久しぶりの再会を果たしたときは、これ以上ないくらいに嬉しく思ったそうだ。しかし、世間一般的に兄弟がそういった関係にはならないし、なってはいけない。心白は昔からずっと変わらぬ湊斗への想いをその胸に抱いていたが、それと同時にある日ふと思ってしまったのだという。
「なんて思ったの?」
優しく心の内を聞いてみる。乱暴に引きずり出すなんて
「なんだか私だけみーくんと久しぶりに会って、親の再婚だからっていってもいつの間にか同居まですることになっちゃって。私と同じくらい みーくんのことが好きな れいかちゃんにひとりだけ申し訳ないなって思ったんだ...」
(なるほど。つまり しろはそんなつもりは無かったけど、気がついたらひとりだけ抜け駆けしているような気がしてしまって、この一年以上もの間 俺との間に一線を引いてたという感じかな)
好きな人といつの間にか家族になり、手を伸ばせばいつでも好きな人に
「分かった。言いたくなかったこともあっただろうけど、俺に話してくれてありがとう」
「いいよ、もう。私も正直いっぱい いっぱいだったからさ、」
それはそうだろう。好きな人がいつも隣にいるのに、好きだと伝えられないもどかしさは、時間が経てば
「そうだね、しろは長い間俺と麗華のことを考え続けてくれたんだから、これからは自分が幸せになるために自分の時間を使ったらいいんじゃないかな。それは俺だけが思うことじゃなくて、きっとれいかも間違いなくそう思うよ」
「れいかが優しくて、俺たち三人のことを一番に考えてくれるってことも、しろは昔から知ってるでしょ」と、加えて心白に言う。なぜなら、心白がそんな顔して欲しくないのは何も湊斗だけではなくて、麗華もだから。
「ありがとう。みーくんはやっぱり優しいよね...」
細くて
「ふぇっ、?」
“ぎゅっ、”
「しろが幸せじゃなかったらさ、れいかもきっと悲しむし、俺もしろにそんな顔はして欲しくないかな」
優しく心白の内側に届くように囁く。
「っ、.....」
「だからさ、これからは兄弟としてもそうだけど、しろが望むなら兄弟以上の関係になっても俺は構わないよ」
それは湊斗の本心だった。誰が何を言おうとこれは湊斗の答えであり、本当に思っていることだった。まだ先の見えない未来で、この選択をしたことで色々と苦しむことになるかもしれない。後悔だってするかもしれない。しかし、そんなことはどうだっていい。ちゃんと目を向けるべきものは、既に目の前にあるからだ。
だってそうだろ?この物語は、
『将来を誓い合った二人が、初対面からやり直して幸せに暮らす物語』
なんだから。
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