第一章 Another Destiny
プロローグ 白昼夢
満開の八重桜が雲ひとつなく晴れ上がった空を背景にして、暖かな春風に乗せられて花びらを散らせる頃。とある少年少女は今日も仲良く話に花を咲かせる。
「ねえ、みなとくんは こはくちゃんのこと好きなの?」
「ん?べつにー、おれは れいかとしろのことはどっちも好きだし」
「なにそれー笑 みなとくんずるいー」
「だって本当のことだし...」
「ねえ、聞いた?こはくちゃんはどう思うー?」
「えー、わたしに聞かれても困るなぁ笑」
そう答える彼女もまた、可愛らしい容姿をしており、麗華を美しいと表現するならば彼女は可愛いといった感じだ。名前は天宮 心白と言って湊斗には
「しろに聞くなよれいか、しろ困ってるじゃんか」
「はいはい、すいませんでしたー」
全く悪気がないようにそう言う麗華だが、この三人はとても仲がいいので、これくらいで何か思ったりはしない。
「みーくんはそれでどっちが好きなの?」
「おい、しろまでそんなこと聞くなよ。おれが同じくらいふたりのことは好きだってことは前から知ってるくせに」
「ごめんね。少しみーくんのこと、からかいたくなっちゃった」
こちらもまた全然悪気が無さそうに可愛らしい顔でそう言うが、もう一度言う。この三人はご近所さんの間でも仲良し三兄弟と呼ばれるほど毎日一緒に遊んでいて仲がいいのである。
「まあ全然いいけどさー、そう言うふたりはおれのことどー思ってるんだよ」
このまま終わるのもあれなので、湊斗は少々反撃したくなってきた。
「えー、わたしはみなとくんのことは“好き”だよ?」
「わたしもみーくんのことは“すき”」
そんな当たり前のようにふたりは言うので、湊斗にやってやったぜ感はこれっぽっちも感じなかった。むしろ、反撃したことに少し後悔した。
「なんでそんなに真っ直ぐな目で見てくるんだよ...」
真っ直ぐな目で湊斗を見つめながら「じゃあさ、」と麗華は言う。
「わたしとこはくちゃんだったら、みなとくんは大きくなったら“どっち”をお嫁さんにするの?」
「いや、そんなの今は分からないよ。ただ分からないんだけど、おれにはどっちも好きだから選べないかも...なんて笑」
少し考えてみて欲しい。もしも目の前にタイプは違えどふたりの魅力的な美少女がいて、その両方から好きだと言われるのだ。そのとき、どちらか一方としか結婚はできないのだから、そんなの選べるわけがないだろう。そもそも、湊斗は麗華と心白のふたりことが大好きなのだ。片一方と結ばれて片一方は切り捨てるなんてこと、湊斗にできるはずがなかった。
「まあ、みなとくんらしいね笑」
「そうだね笑 みーくんは優しいから」
誰かが結ばれ、誰かが結ばれない。まだ幼い湊斗たちにはそんなことはどうでもいい。そんな三人の、まだ何気ない会話は春の暖かな気温に静かに息をしながら溶け込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます