第32話 勝負の行方 と 結果の味


「わーい、こっちきてあそぼーよー」


「なにして遊ぶの〜?」


湊斗と麗華の住んでいるマンションの外から子供たちの平和な声が聞こえてくるが、201号室の雰囲気はそんなに平和ではなく静寂に満ちていた。


“---------”


「「.......」」


(これは...)


「でも、学年の中だったらかなり良い方だと思うよ?みなとくん、そんなに落ち込まなくても...」


勝負の一週間を乗り越えた湊斗は、麗華とふたりで全ての教科を振り返り、実際どれくらい点数が取れているのかと自己採点していた。


「いや、これだと稜真には届かないよ」


中間考査は全部で10教科を少し越えるのだが、分かりやすく10教科に合わせて合計点を出してみた。


自己採点の結果は...


【湊斗: 923/1000点】


【麗華: 950/1000点】


だった。これは決して悪くない。むしろ征華学園で合計点はが900を越えることはまず無いと思った方がいいくらいだろう。つまり、湊斗と麗華や稜真がただの化け物なだけなのである。


「でも、ひとつもったいなかったのは数学だよね。全部9割越えてるけど数学だけは8割だもんね。いや、それでも今回の数学のテストを踏まえると十分なんだけど」


「でもあの日の夜れいかが教えてくれた考え方がなかったら7割いってたかもしれないから、れいかには感謝しかないよ。本当にありがとう」


今回の数学は定期考査のくせに難化していた。正直この数学のテストで6割を取っていたら上出来だろう。しかし、そんなことも言っていられないのがこの湊斗と稜真の勝負だった。


「いいよ、私のことは。みなとくんの力にちょっとでもなれて嬉しいよ。でもそうだね、一色くんならこのテストで940点くらいは取っててもおかしくはないね。なんならいつもより上手くいった場合は私の点数も、もしかしたら越えちゃうかも」


それほどまでに征華学園 第二学年 首席と次席はみんなが思うよりも桁違いな存在だった。


「あと10点以上も俺と稜真には差があるのか...」


(結構頑張ったつもりだったんだけどな...)


あと10点なんて数学の最後の方の問題が1問でも解けていれば縮まる距離だったが、99点と100点に果てしない壁があると同じように、これはそんな簡単には乗り越えられない“実力の差”だった。


「でもまだ分からないよ。テストが返却されるまではまだ諦めちゃダメだよ」


「そうだな、自己採点なんて曖昧だもんな。ありがとう れいか。今から終わったテストで何かできるわけでもないけど、気持ちだけは折れないでいるよ」


「うん。だからそれまでは普通にいつも通りに過ごそうよ」


“トントンッ”


そうして机に並べたテストたちをまとめ整えて、湊斗は透明なファイルに全て閉じた。


※※※


その日の朝 教室に入ると、クラスにいる皆のいつもの楽しそうな会話は聞こえてこず、普段読書をする人は真面目に前を向いたまま姿勢よく、ただ椅子に座っていた。なぜなら今日は中間考査の結果が生徒たちに言い渡される日だからだ。


“ガラガラッ--”


しばらくすると西城先生が教室に入ってきた。


「よし、ひとまず皆にはお疲れ様と言っておこう。そして、今回の数学に関してだが色々と言いたいことがあると思うが、平均点は自然と下がるからある程度点数を取っておけばいくら点数が低くても良い成績がつくから安心しろ」


まずは皆の抱いている不安について珍しく西城先生は安心しろ。と言った。


「それでは学年上位3名を発表する」といつも通り言って、西城先生は大きくトップ3の名前が刻まれた白い紙を黒板に貼る。


「えー、これを見て分かると思うが今回は首席が二名出たので、上位三名の表記の仕方はこのようになる」


黒板に張り出された紙にはこう書かれてあった。


【一位: 一ノ瀬 麗華 950/1000点】


【一位: 一色 稜真 950/1000点】


【二位: 五十嵐 颯太 925/1000点】


「まじかよ〜!やっぱ一色と悪魔はすげぇな!」


「いや、まずこのテストで900点越えてるのが頭おかしいんだよ」


「さすが一色くんだわ〜」


「運動もできて頭もよくて顔も良いなんて羨ましいやつめ!」


クラスのみんなは口々にそう言うが、湊斗の耳には全く誰一人として入ってこなかった。


「まじか.....」


見たまんまだった。他に言い訳すら思いつかなかった。つまりそこには湊斗の名前は無かったのだ。


「あとは番号順に渡していくから、自分の番号が近づいてきたらここに並ぶように」


そして1番から順に渡されていったが、湊斗の苗字は一条なので出席番号は割と早かったので、湊斗の順番もあっという間に来てしまった。


「一条くん。惜しかったな、次回は期待している」


そう一言、西城先生に言われて渡された成績表にうつろな目をゆっくりと落とした。


【三位: 一条 湊斗 920/1000点】


あの紙に載るにはあと 5点 足りなかった。そして、稜真に追いつくにはあと 30点 足りなかった。自己採点での湊斗の点数は923点と予想していたが、やはり実際の点数はそれよりも少し下がっていた。


「あんなに言っておきながらだっせぇな俺...」


ついつい口から愚痴が溢れてしまう。


“ガタッ”


席に着くと隣に座る麗華が心配しているのがよく分かったが、あえて湊斗は気づかない振りをした。


(これが敗北の味か...)


自己採点の時点で分かっていた未来ではあったけれども、実際に目の当たりにするとやはり心にくるものがあった。そしてこの久しぶりに体験する敗北の味に湊斗は少々打ちひしがれてしまった--

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